1317 付き纏われた
ならばどうしてくれようか?このままこの騎士たちを単純にぶっ飛ばしてもいい。ずいぶんな嫌がらせになるだろう。
王弟様はどうやら「嫌がらせ」がお好きらしいので俺もそれに倣って嫌がらせをしてやればいい。
とは言え、俺はもう門を過ぎて大分街道を進んだ。一々足を止めたくは無いしこのまま加速状態に入って逃げてしまおうと思った。
(道には人はまばらだし、このままこの状態で無関係の人にぶつかる心配は無いだろうからな)
俺は襲い掛かろうとしてくる騎士を無視してそのまま目的地への道のりを行く。「力」を発動させたまま。
当然にこのままでいれば騎士たちが追いかけては来れない訳で。武器を構えてこちらに迫ろうと言った気迫のままの顔で固まっている。
(このままずっと進み続けるか。ヤバいと感じた時に少しだけ解除して、また後方から騎士が迫ってきたらまた同じように逃げればいいや)
未だにこのゴタゴタから完全に逃げ出せた、脱出できたと言う状態では無いのは分かっている。
根本を解決できていないのだから当然だ。けれども今回は覚悟している。俺は手を出さない。出す事になってもその場限りでそれ以上は余計な事をしない、と。
まあこうして決意を胸にした所でそれはあっさりと第二王子のあの所業でいきなり脆くも崩れているが。
とまあそう思いながら、道を行きつつ俺は少しづつ心を固めていく。精神を落ち着かせようとしていく。
こうして分かれ道に来た。門番から聞いた説明通りに右の道へと入ってそのまま進み続ける。
どうにもこちらの道は人の通りが増えてきていた。闘技場都市への観光が目当ての者たちなのかどうかは知らない。しかし確実にどうにも人の密度は増え始めていた。
「ふぅ。解除して進むか。調子乗ってると俺の方に異常が出そうだ。」
以前からこの「力」を使い続けているとどうにも心のざわつきが大きくなる傾向にあった。なのでこうして時々適度に加速状態を解かないと、どう言った突拍子も無い事をしでかすか分からないのだ。
海の上を歩き続けたあの時には流石にヤバかった。あの島を見つけられなかったら何をしようとしていたか想像するだけで怖ろしい。
こうして他の旅人に紛れて普通に歩き続けたが、別段騎士たちがこちらに追いかけてくる気配が無かった。
どうにも目の前に居た俺が忽然と姿を消したことで混乱でもしているのだろう。
俺からして見れば静かなこの状態は凄く快適なものだ。なのでこのままが続いてくれるのが一番いい。
だけどもまあ、それはどうやら許されないようで、街道に設置されている休息用に作られている広場に辿り着いた時にそいつらは現れた。
「なんじゃ。お主、突然居なくなったと思ったらここに来とったか。」
賢者の爺さんだ。となるとそこには王女もセットである。しかし王女の方は何も俺に言う事は無いのだろう。別に敵でも味方でもないのだ。それはそうだろう。
俺の所に二人が寄ってくる。「つーか、何で寄ってくるんだよ」と俺は思う。この二人に俺は用事が無いし、それこそこの二人が俺に用事を持っていると言う訳でも無いはずだ。
あの森の家で俺たちはそんな関係になった覚えは無い。なのに自然と俺へとまるで「久しぶり」と言いたげな様子で爺さんが近づいて来る。
「おい、何で寄ってくるんだよ?俺にはあんたらに用が無いから近寄って来るんじゃねえ。」
コレに爺さんはニヤリと笑ってこう言ってくる。
「お前さん、何か掴んだんじゃろ?それを教えてくれんかな?なに、御馳走したあのお茶の返礼としてちょこっとお喋りに付き合ってくれるだけでええんじゃよ?」
つくづく底の見えない爺さんだった。




