1316 どうしても逃がしちゃくれないらしい
俺はその後は何も無かったかのように普通に歩いた。大通りを。そしてそのまま真っすぐに進み続けてこの街の門まで到着する。
「門番にでも闘技場都市はどちらの道を行けばいいか聞くか。と言うか、出る事ばかり考えて向かう先を全く考えていないかった。でも、それくらいでちょうどいいのかね。ま、ちゃんとこうしてその事を思い出したんだから大丈夫だろ。」
そのまま俺は門へと近づいてそこに居た門番に久しぶりにあの通行手形を見せた。以前にエルトスが用意したあれである。
この国でもそれが通用するらしかった。一安心だ。この俺の居る大陸がレブン大陸だと言う事が身に染みる。
「闘技場都市にはどちらに向かえばイイですか?観光でそちらに向かいたいんですが。」
「はい、こちらの街道を暫く行って最初の分かれ道を右ですね。良い旅を。」
門番は俺が出した手形を見てやはり驚き、そして俺のこの質問に丁寧な口調で答えてくれた。この反応がものすごく懐かしい気持ちにさせてくれる。
(さて、もうここには長居は無用だ。サッサと出て行ってしまおう。この国の後の事なんて知らん。知らないったら知らないんだ)
これほどにあっさりとこの国を出て行けるのならば、今まで別の国などで絡まれていた事案でももしかしたら俺の気持ち、決心次第では早々にケツ捲って逃げられたんじゃないだろうか?そんな事が思い浮かぶ。
しかしこうして街道に出たのならばそれももう考えない様にした。目的地は一旦闘技場都市にする。
コレは観光地としてもかなり有名な場所であると言う事なので何処の地域に言ってもはっきりとした道が指し示られると言った所である。
コレが向かう先を何処の誰も知らないような土地に決めるのはアホの所業だ。そんな誰も知らない場所を誰が知るというのかと言った所だ。
こうして俺は無事に街道を進むのであるが、それを黙って行かせないとばかりに背後からドタドタとした音が迫って来る。それはどうにも俺を追って来ていたようで。十五名ほどの馬に乗った騎士が現れた。
そう、馬だ。こちらの大陸ではたしかまだまともな「馬」はまだ見た事無かった。しかしよく見ると牙が生えた凶悪な相の馬だった。人を噛み殺しそうなツラした馬である。
「そこの貴様!被り物を取ってこちらに顔を見せよ!言う事が聞けないと言うのであれば問答無用で斬り捨てる!」
いきなりの事で俺はどうしようか迷う。十中八九、これは王弟が出してきた追手だと思ったからだ。
このままフードを被ったままでも結局は駄目だし、取っても恐らくは俺を連行するか、そのまま斬り殺そうとしてくるんじゃないかと考えられたからだ。何処までも俺を逃しちゃくれないみたいである。
そして俺は振り向いて素直にフードを取った。この追手たちの反応を引き出すつもりで。
「黒い髪、黒い瞳。間違いない、こやつだ。全員抜刀!油断無くこやつを殺す!」
槍を持つ者、剣を抜く者。馬上で武器を構えてこちらに向けてくるこいつらのこの行動、これで確実に王弟の差し向けてきた者たちだと確定した。
俺をこの様な「黒」と呼んできたのは王弟である。一度連行されたあの時にはその俺の目立つ黒と言う色で直ぐに見分けられて発見された。
今回も同じだ。こうして黒いと一目で分かるその特徴でこうして俺の発見を指示しているとみられる。
「逃げよう。ああ、アンタら、伝言を頼んで良いか?王弟だろ?お前らをこうして派遣したのって?だったらさ、俺はこの国をもう出るし、アンタとの話の内容は誰にも喋らないから安心してくれって。言っておいてくれない?」
「王弟様の御命を狙う暗殺者め!皆の者!合図で一斉に掛かるぞ!・・・殺せ!」
俺の話なんて聞いちゃくれなかった。




