1305 踏み込み過ぎていて逆に疑問
馬車に乗り込めばすぐに出発になった。いい馬車のようで揺れは少ないし、そのただでさえ少ない揺れがこれまた尻に敷いたクッションが吸収して全く無いと言ってイイ程になっている。
こうして暫く馬車は走り、豪華な豪華なお屋敷の門の前へと到着する。ここで降りていくのかと思ったらそのまま庭へと。
その庭には屋敷の入り口まで真っすぐに、綺麗に石畳が敷かれた道が。そこを馬車は当たり前に行く。
こうして屋敷の入り口前まで来てようやく馬車は止まる。そして俺は外に出る様に無言で促される。そう、馬車の扉が何の音もたてずに、声も掛けられずに御者に開けられたのだ。
「うへあ。何だろうか?もう逃げちゃいたい気持ちで一杯だ。だけど、俺をこうして呼びつけてまで何が知りたいのかって言うのも気になるよなあ?」
俺は素直に馬車から降りる。するとタイミングぴったりに屋敷の扉が開かれて初老の男性が、それこそ「セバスチャン」と言いたくなる見た目のピシッとした執事が出てくる。
そしてただ一言だけ「こちらへ付いてきてください」と。そう言い終わると俺の事など見向きもせずに屋敷の中を行ってしまう。
俺もここで腹を括らなければならないと考えた。今回は凄く良い感じに「回避」ができたかと思ったのだが、最終的にはこの展開だ。いい加減にこうなったら俺も流れに乗るしかない。
こうして付いて行った所で到着した部屋へと入るように言われる。執事がそのドアをノックして「お連れいたしました」とだけ言うとその部屋の中から「入って」と返事が返って来る。
コレにドアを開けた執事に中に入るように促されると、そこにはソファに座る一人の女性が。恐らくなのだがこの女性が王女が「お姉さま」だと言っていたマリストラ侯爵令嬢だろう。
「ここまで呼びつけてしまって御免なさいね。直接あなたから話を聞きたかったのよ。調書の写しを読むだけじゃ細かな部分が伝わらない事も在るでしょう?だからそう言った部分を「確かめ」たくって呼んだの。」
どうやらそう言った訳で俺は呼ばれたらしい。侯爵令嬢が直接そんな真似をするなどと言った話は珍しいのではないだろうか?
そもそもこの様な「王女」に関する事案にここまで侯爵令嬢と言う立場で首をこれほどに突っ込む事自体があまりにも「踏み込み過ぎている」と不審を買う行いじゃないだろうか?
「では、話を聞かせて頂けないかしら?最初から、詳しく。」
求められるがままにまた取り調べの時に話した内容をここで語ってもいい。だけども俺はそんなつまらない事をするよりも気になる事がある。
この侯爵令嬢は王女が森へと捨てられた事件の犯人なのかどうか、である。
(さて、どうやって話を引き出そうかな?と言うか、俺がそんな難しそうな駆け引きを上手く運べるわけが無いんだよな。こうしてどうにもならない位に、無理矢理に深い所にまで付き合わされなくちゃいけないようなら、さっさとそう言った疑問は解消しときたいもんなんだけどな。ままならないってこんなに強いストレスになるんだなぁ。分かってたけど、分かってたけども)
俺がこうしてどうしようかと考えて少々の沈黙をしていたら、侯爵令嬢の背後に立っていた護衛だろう騎士が俺を睨んでこう言ってきた。
「貴様、マリストラ様の求めにさっさと答えんか!いつまで黙っているつもりだ?・・・どうやら命が要らんらしいな?」
その手を剣へと掛けようとゆっくりと動き出すその護衛。どうやら俺は脅されているらしかった。




