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1301  森の中を駆ける

「て、てめえは一体、何モンだ?素手の一撃で殺しやがった・・・人間業じゃねえ・・・」


 緊張で息が苦しかったのか、男はそう言って無理矢理呼吸をするように俺に言葉を投げてくる。

 どうにもいけない。人間業じゃないと言うなら、この男は俺の事を何だと思うのか?


「くっそ!ば・・・化物め!お、覚えてろよ!」


 チンピラの逃げる際の捨て台詞である。ヤバい、化物呼ばわりされた挙句にこのテンプレセリフである。

 笑うしかなかった。俺はその男がどう思おうとも構わずにその場で爆笑をした。俺の笑いのツボはどこにあるのか?俺自身もちょっと引くくらいには分からない。


「ぶ!ぶはははは!な、なんだよ!陳腐な言い方しかできねーんだな?というか、覚えてロッテ言われても・・・ブフ!そっちは大きな出来事で覚えてるかもしれないけど、こっちは些細な事としか捉えてねーから直ぐに忘れそうなんだが!いや、ぷふふ!そのセリフに大いに笑わせて貰った事は覚えているかも?ブふっ!」


 俺のこの言葉が逃げている男に聞こえたのか、振り向いてきてこちらを睨んでくる。だがしかし冷静に「逃げるが勝ち」と判断したらしい。怒りを抑えつつも全力でこの森の中を走って逃げる。

 ドンドンと遠くに行ってしまい、もうその姿は小さく、森の奥だ。


「さて、コイツはもう死んでるし、剥ぐか。ほんと、今の俺の行為は外道も外道なんだろうけどな。死人に現世の金は要らんだろ。」


 俺は殺した男の懐から金を取る。それ以外は何も取らない。そしてその後にすぐに逃げた男の方向へと走る。

 追いかけっこ、あるいは鬼ごっこか。逃げた奴の後を追えばきっと人の居る場所へと辿り着くはずだ。


「まあ、「力」は使わんでも今から追いかけても追いつくだろ。恐怖を味わってもらうかね。まあ、殺さないさ。逃げるのはそれはそれだけど、人の居る場所だろう所に案内してくれている、って言うのはまあ確かにそれだからな。」


 形は違えども「教えてくれている」と言う事実には変わりない。俺にとっては。なので全力で逃げた男を追跡する。


「よし、もう背中が見えてきたな。後はアイツをへばらない位のぎりぎりで追い詰めながらもこのまま走らせ続けるだけだ。」


 鬼だ。俺は相手の男の恐怖を利用してそのままこの森の中を必死で走らせ続ける気でいる。

 人を一人、理不尽、不条理に殺そうとした罰としては大分温過ぎる方だろう。感謝してほしいものだ。


「げっ!追いかけてきやがったのか!?くっそう!距離は充分離れていたはずだぞ!?何で追いつけるんだよ!」


 男はこちらに気付いてまたペースを上げて走り出した。ここからは俺のコントロールがモノを言う。

 男に逃げ切れないと思わせては駄目だし、体力がすぐに尽きる様なペースで走らせても駄目だ。絶妙なコントロールが必要だ。

 森を抜けるだけの体力を残させつつもこのままの速度で走らせ続けて街、もしくは村だろうか?そう言った人の居る場所へと導いて貰わねばならない。

 今の俺にとってこの男が「諦めてしまう」事だけは避けねばならないのだ。なので俺は走り続けつつも木々が邪魔だと言った感じで、男が振り向いてこちらを確認してきた際に「後ろに下がる」事をしなくちゃいけない。

 そのタイミングはシビアだが、やって見せる覚悟はある。なにせこの男しか俺にはこの森の案内をさせられる人物がいないのだから。

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