1296 ほんっと!面倒臭い!勘弁して欲しい!
「しかしのう?まだまだお嬢ちゃんは説明が足りとらんじゃろ。話していない事があるんじゃ無いのかのう?それにその首輪が付いていれば何処でどのように「命令」を受けて操られてしまうか分かったモノでは無いのぅ?解決策が無いのであれば行っても無駄じゃわい。考えが無いのであれば案内はできんのう。」
爺さんは案内すると言ったそばからまたしても掌をクルリと返した。意地の悪い事だ。しかもさっきまで王女と言っていたのに何故かお嬢ちゃん呼ばわりに変えている。まあそれは俺には関係無いから別にどうでもいいが。
これに王女はずっと悔しさで歯を食いしばり続けているばかりでいる。いい案とやらは浮かばないのだろう。城に行けたとしても、その後の行動の指針すら無いのであれば行くだけ無駄だ。
どうにも城がゴタゴタしているその状況から逃がされた、と言う態でこの王女は森の中まで連れてこられたらしいと言うのは分かった。
それで今更城に戻ってさあ、何をするのか?と言った所だろう。ゴタゴタが戻ってみたら治まっていて、そこに王女が現れて。しかし首輪が嵌っていて、この様な仕打ちをしたその「誰か」が王女が邪魔だから、城からこうして離したのでは無いのか?と。
そんな所に戻ったらまた争いの種が植えられるだけであって、そこからまた権力闘争が激化、あるいは混迷を増やすのではないのだろうか?
しかしそんな事も俺には関係が無い。関係したく無い。ここで俺は思い切って爺さんに物申す。
「このまま時間を浪費し続けたく無いんだが?別に急ぐ必要も無いけど、だからって言ってここに留まり続けるつもりも無いんだ。爺さん、俺だけにで良いからどっちに行けば森を抜けられるか教えてくれよ。もう、こんな問題、俺が何かと意見が出せる範囲を超えてるぜ。勘弁しろよ。」
俺は隷属の首輪は幾つも外してきている。だけどもここで俺は行動は起こさない。だって王女のその首輪を外したら話がややこしくなる、余計に。
俺の事を「何者だ」と追及してくる二人の姿が簡単に想像出来るからだ。そしてそこから縋りつかれるのだ。何者だか知らないが、只者では無い。その力を貸してくれ、と。
俺はこの場でいっそこのまま遭難覚悟でこの家から出て行ってやろうかと考えてしまう。爺さんがいい加減その意地の悪さと腹の黒さを見せてくるなら。
「ん?何じゃ。ゆっくりして行けばええじゃろ。暇な爺の話し相手に、ちょっとくらいは付き合ってやる優しさを見せんか。」
「うるせえよ爺さん。そんだけ元気で居りゃ暇の潰し方なんていくらでもあるだろう。つか、こんな森の中に住んでいて暇とか言ってる余裕は本当だったら無いだろうが。」
こんな場所で自給自足をしようとするならそれらの生活を支えるための準備仕事に四六時中追われていなけりゃならないはずだ。
しかし爺さんはどう見ても「余裕じゃわい」と言った態度を変えない。どうやら賢者などと言われていたらしいのでそこら辺は要領良く仕事を終わらせて時間を確保しているのかもしれないが。
「お嬢ちゃんも泊まっていくと良いじゃろ。しっかりと一晩頭を冷やす事じゃ。・・・我慢ならずに考え無しにこの家を飛び出しても構わんが、それが王族の取る行動に相応しいかどうかも、その時はちゃんと考えるんじゃぞ?」
ここまで言われて流石に自分が焦っている事を理解したのか、王女は強く目を瞑って一拍置き、大きく溜息を吐いた。




