1294 御姉様って、誰?
「忘れた方が良いじゃろ。こうして無事に五体満足で生き残れたんじゃ。運が良い。ならばここで王女では無い新たな人生を歩めばいいじゃろ。城の事も、国の事も、王族の事などマルマルその他全部忘れて、無かった事にして生きればええ。それは、できん事か?」
爺さんはそう頭を下げ続ける王女に問う。コレに返って来る言葉は。
「私はこれまで民の税金で生きてきております。ならばその責務を果たすべき。国の未来が掛かっていると言うのであれば、そこに我が身を投じる、投じなければならないのです。この国の未来をより良くしようと、この身、この命を投じなければならない義務が御座います。」
固い、ご立派過ぎる。俺はそうツッコミを入れたかったが、ここは空気に徹すると誓ったのだ。黙っておく。
この王女の問題は賢者の爺さんが担う、俺じゃ無い。そのために俺はここで空気にならねばならないのだ。目立ってはいけない。
「じゃがのう?その首輪が付けられている状態ではそれも叶わんじゃろう?隷属の首輪、しかももう魔力の登録は、されているみたいじゃな。もうこうなればワシでも外す事はできん。王女を隷属させることもできたはずなのに、そ奴はソレをせずに殺す事を選んでおる。その首輪は保険じゃろう。万一に戻って来ても、その首輪が付けられていれば城に入るどころか、門前払いされるのがオチじゃ。直接殺す様な真似をせずにこうした遠回りに殺す様な事を仕込んでおるのは何故なのかは分からんが。」
そうだ、直接殺す事もできたはず。こんな森に置き去りにせずとも。しかも隷属の首輪を付けてまで放置は流石に分からない。
これに王女は悔しそうに歯を食いしばる。そうしながら絞り出すように言葉を吐く。
「・・・御姉様が、私を逃がすために、森の中へと私を一旦避難させるために。でもこの様な、仕打ち・・・何故、この様な真似をされたのか、私にも・・・分からない。何故、御姉様・・・」
ここまで来て話が複雑になり始めている気配がする。自分の首に嵌っている首輪を触りながら悔しそうに顔を歪める王女。後出し情報はやめて欲しい。
御姉様と言っているので上が居ると言う事だ。城内で何かしら問題が発生して、ソレに巻き込まれないようにと、その御姉様とやらが王女を逃がした?と。
しかしここで爺さんが「はて?」と首を傾げた。
「キャレーナ王女と言えば継承権第一位じゃろ?それが、御姉様じゃとな?」
俺もこの爺さんの言葉に思わず「は?」と口から漏れてしまった。そして思わずツッコミを入れてしまう。今まで空気で居たのが台無しだ。
「え?待て待て待て。じゃあその御姉様って、誰よ?え、誰よ?」
継承権第一位だと言うのだ。その上がある訳が無いだろう。それで御姉様、と言った言葉だ。混乱する。
しかし直ぐに冷静になって考えれば分かる事だった。家族、姉妹のと言う意味から外れればどうって事無い。仲の良い年上が居ればそんな風にこの王女が慕う、王族以外での貴族が居ると言う事もあるだろう。
「マカラストル侯爵令嬢、マリストラ様です。」




