1288 レブン大陸よ、俺は帰ってきた
俺は言われた通りに女性をベッドに寝かせた。爺さんはソレを見届けた後に俺へ椅子に座るように促してくる。
「お互いの事情説明は、まあ、嬢ちゃんが起きてからでいいじゃろ。一々ワシらだけで話をしても意味が無さそうだしのう。ほれ、茶じゃ。」
俺はテーブルへと出されたコップを手に取りその中身を啜る。今更この爺さんに悪意があって毒が入っていると言った事も無いだろうここまで来ると。
こう言った考えは油断かもしれないが、もう心が疲れ切っていた俺にはどうでもいい事に成り下がっていた。
(死ぬ気は無いけど、だからってもうこれ以上アレコレに必要以上に警戒をするのがウンザリだ)
この爺さんの見せた人柄が今更演技だとでも言うのなら、騙された俺の方が間抜けなのだ。
俺はお茶の味にゆっくりと息を吐きながら、せめてこれだけは聞いておかねばならないと思って爺さんに訊ねる。
「なあ?最初に一つだけ聞いても良いか?この森は、レブン大陸で合ってる?」
「妙な事を聞く若者じゃな。何を当たり前のように。ん?飛ばされたと言っておったな確か?どう言う事じゃ?まあ、説明が難しいなら言わんでもええ。別にお前さんの素性は後で嬢ちゃんが起きた時にでも聞けばいいだけじゃしの。」
俺はこの返答に安心をした。帰ってきていたのかと。でも、安心はまだ早かった。時間の経過は?あの真っ黒な空間がもしも「精◯と時の部●」みたいなのと逆の性質をもった空間だっら、と考えると恐ろしい。浦島太郎を思い出す。
とは思っても、いくら何でもそう言った細かい所まで疑い過ぎたらキリが無い。
俺の人生がどんどんとキリが無いモノに埋まっていく圧迫感が押し寄せてくるが、半ば自棄になってソレを忘れるように努める。こうなれば俺がどうかしようとしても、どうにもならないのだから。
(三大陸制覇したからもうこれ以上何か変な事を押し付けられるような事は無しにして欲しいと思うんだがな?ソレは、まあ、こうなっては無理って事か)
もう既に竜の問題はこのレブン、ヒノモト、ザルドで全部終わったのでは無いのか?と言いたい。けれどもこうした「人の問題」は無くならない訳で。
導かれるようにあちこちに向かわされ、恐らくだがもういい加減に「竜」関連の事はもう無いだろうと高を括ってもコレである。
最初にレブン大陸に居た時にもっと多くの竜の存在が居たなら、ヒノモトに行く前にそれらの問題へと「派遣」をとっくにされていたはずだ。
ならばこうしてヒノモト、ザルドを経由してこっちに戻って来たのならば他の問題でまた「タライ回し」にされると思っておいて間違いは無いはずだ。
ソレだけ俺は本来なら人生を何度か廻らなければ会えないはずの竜と言う存在に出会い過ぎである。
静かなお茶の時間が流れる。お茶菓子は残念ながら無いが。そうして爺さんからはそれ以上は何も言ってこない。こうして穏やかな時間が幾分か過ぎた時に女性は目を開けたのだった。




