1271 いろいろやらせたけど、最後は結局「スン」てなった
この偽物がどうしてここに現れたのか?と言った疑問さえ忘れた。そのころには投げ、寝技、関節技、をやらせ、ソレを俺が受ける。
しかし受け身も返し技もキッチリと俺が取って、それすらも偽物に覚えさせた。ついでに合気も少々齧らせる。
「あー、刀を持たせたりして打ち込ませたりもしたいけど、そこは我慢するか。とは言え、思い浮かべればそれも再現・・・してくれるのね。うん、それじゃあやってみるかな。いや、危ないからこれ以上は止めよう。」
偽物の手にいきなり切れ味鋭そうなキラリと光る刃を見て俺はやっと精神が冷えた。
「・・・おい、待てお前。振って来るなよ。おい、待て、止めろ・・・って言ってんだろうが!」
どうやら頭に思い浮かべた後は勝手に俺の脳内から情報を吸い取ってしまうらしく、その刀で遠慮無しに斬りかかって来る。
幾ら俺が止めろと言っても止まってはくれない。連続でどんどんと襲い来る刃を冷静に躱し続けたのだが、途中でいい加減にムカッとして、つい偽物の顔面をぶん殴ってしまった。
普通状態でも怪力である俺はその事をこの時に忘れていた。かなり力を入れて殴ったのでもしかしたら顔面を陥没させてしまっているかもしれなかった。
殴られて吹き飛んだ偽物、しかし何事も無かった様にひらりと受け身を取ってすぐに正眼の構えを取りこちらを警戒してきた。
今度は先程の様に斬りかかって来ずにジリジリと間合いを摺り足で詰めて来ている。その顔面は傷一つ無い。
「おう、まるでマネキンだな。俺そっくり、って言うのは意味が変だが。それでも自分の顔面殴るって気分悪いわ。どうしたらいいんだ?って言うか、何?ここ山だよね?何でこんなのが出てくるの?」
こう言った自分の偽物、鏡映しの様なパターン的な展開は「魔法の道具が」とか「物真似を得意としている魔物」とか「幽霊的な何か」とか、いくつか思いつく候補はあるのだが。
さて、こいつを倒してしまって大丈夫なのかどうか?だ。大切なのはそこである。
「でも、倒す以外に道が無いんだよな現状を変えるモノが。解決策とか全然思いつかない。って言うか、ヒント全く無いじゃん。どっかにそんなフラグ在った?」
こうして考えていてもジリジリと偽物は間合いを詰めて来ている。そして一刀入れられるだろう距離にまで来ると袈裟切りを狙って飛び込んできた。
ソレを俺は余裕を持って後方へと躱す。まだまだこの偽物の動きが硬いのでまだ普通状態で避ける位の事は出来る。
「でも、これもうソロソロヤバイじゃん。後、二、三回振ったらすぐにでも動きのキレが良くなるだろ。倒して良いのか?もしやって今以上のヤバイ状況に変わったら後悔してもしきれねーし?かといってこいつを止める方法が他に思いつかないし?・・・そもそもコイツ、倒せるのか?」
先程顔面を殴って無傷だった。ならばあらゆる攻撃を無効化する力でも持っている可能性が無くは無い。そうするとこの偽物は物理的攻撃では倒せないと言った展開も出てくる。
「まあ力を発動して攻撃した場合はまだ試してないし。それがもし通用しなかったら逃げるしか無いね。」
ここに来て「力」が効かない相手である場合、この世界に来て初めての敗北と言った所になるだろうか?
別に勝ち負けなんて俺は考えたりしてきた事は無かった。この「力」を使用して無理矢理何でも解決してきたから。
しかしここに来て良く分からないコイツのおかげで、そう言った思考をする事ができるようになった。
「やってみるしか無いって、結構勇気が要るモノだよね、時には。」




