1268 霧の中に見えるもの
だが、いくら待っても何かが出てくる事は無かった。
「まあこれだけの平らで広い場所があるとなるとありがたいよコッチも。斜めじゃないから安心できるし。」
テントを張ってここで休憩を取る事にした。これほどまでにキッチリとした休みやすい場所も無い。こんな岩山なのだ。どうあろうともここが休憩にぴったりな事は認める所だ。
しかしこの場を必要以上に調べようとはしない。この場所も霧が立ち込めていて迂闊に動こうとしない方が身のためだと何となく感じたから。
これだけの幅と長さの平らな場所なのだから、コレが人工的に作られたんだろうな、って言うのは即座に読み取れる。
「だけどさぁ?こんな所に?何で?それが分からないんだからしょうがない。」
俺は食事の用意をし始める。簡単なモノしか作れないが、それでもあの洞窟から出る際に食事をせずにこうして登る事をしたのでお腹は結構空いていた。
「平常心でいるには「いつも通り」をするのが一番だ。さて、ここで何かしら出て来てくれたら楽なんだけどな?」
食事を終えても、その後の昼寝をして見ても、一向に何も現れない。
「もしかして本当にこの霧はたまたま?いやいや、そうとは思えないんだけど?じゃあ意図的にとかじゃ無く、偶然?ソレはたまたまを言い換えただけに過ぎないしなぁ?偶然じゃ無いだろ、コレ。」
独り言が続く。どうにも霧が晴れなければこれ以上は登る気になれなくて、だらりと力を抜いて椅子に寄り掛かってしまう。
「このまま我慢くらべでもする事になるのか?ここに何時までも留まってもいられないだろ食料の関係上は。このままじゃ俺の負けだなぁ。」
長期戦になるとこちらが圧倒的に不利だ。このままずっと霧が晴れてくれなければ俺としては追い詰められる形になってしまう。
言っても今、どれくらい登ってきたのかすら把握できていない状況だからそれも確かめたい。霧が晴れてくれなければそれも確認できない。
「相当に高い山だったし。まだまだ残りがかなりあるのか、そうで無いのか。うーん?」
一人悩んで独り言を言っても誰も反応してはくれない。と思ったのだが、足音が突然聞こえてきた。
コレに驚いて周囲を見回すと、深い霧の中、俺の居る場所の反対側の霧の中からゆらゆらと人影が現れる。
「とうとうお出まし・・・って、なんだよソレ・・・どうなってやがんだよソレは。」
ソレは人だった。こんな場所に俺以外の人が居ると最初は思って驚いた。しかし次には別の事で驚かされる。
「おいおい、冗談がキツイ・・・骸骨の次は、コレ?」
まるで悪い冗談でも見ているようだ。悪夢だろうかとちょっとだけ手の甲を抓ってみるが、どうにも痛い。
「しかも・・・敵意がマンマンって・・・ピンチだよ、俺の心の方がピンチだよ。」
想像もしなかった。こいつと戦わねばならないらしい。
「嘘だろ、マジでやんの?これと?・・・アリエネーだろ、クッソ!」
とうとうそいつが俺との距離2mの所で止まった。




