1266 竜
ちーん、と言った薄いガラスを軽く叩いた時の様な澄んだ音が響く。何処から響いて来たのか判明しない。しかしそんな事はどうでもよくて。
「おい、大丈夫か?・・・もしかして、死んだ?いやいや、そうはならないだろ。って言うか、全く動かないとなると死んでるのか生きているのか判断がつかないな。」
ピクリともせずに地面へと横倒しになっている骸骨。こちらの呼びかけに全く反応が無い。これでは「返事が無い、ただの屍のようだ」である。
そこで机の上に置いてあった残り二枚の鱗まで消えている事に気付いた。先程の光と共に消え去ったと言う事のようだ。
「それにしても何だったんだよ、ありゃ。またなんかやっちゃったんか?」
俺には何がどうなって、こうなったのかがサッパリ解らない。分かるかもしれない人物?は今一向に動きを見せる事が無い。
俺はどうしたらいいか分からずに出口の方を見た。すると洞窟通路内は別段変化が無い。洞窟内を照らす光は健在だったのでジンネルがお亡くなりになった、と言うのとは違うようだ。
「骸骨がお亡くなりに、って何だよ?意味不明だよ。これ収拾付かないんだけど?どうすんの?」
しょうがない。ジンネルが気が付くまで俺は大人しくしている事に決めた。なのでイスとテーブルを片付けてテントを出す。
「不貞寝しよ。外はまだ霧が出てるだろうし、ジンネルはこんなだし?俺、これからどうすんの?明日の俺に任せよう・・・」
俺は寝袋に入ってそのまま目を瞑ってガチで眠る事にした。
そして翌朝だと思う。ここは洞窟内なので時間の経過が分からない。起きてテントの外に出た俺がまず見たのは立ち上がって直立不動のジンネルだった。
その骸骨の目の中には白く輝く光が備わっていた。
「やあ!おはよう!よく眠れたかい?私も先程意識を取り戻したばかりなんだが!聞いてくれよ!凄いんだ!そしてお別れだ!」
「・・・興奮し過ぎだよ。訳が分からねえ。もうちょっと落ち着いて話せ。」
寝起きドッキリだ。まるで俺は理科室にでも迷い込んだか?と一瞬だけ思ってしまった位だ。骨の全身模型が目の前に寝起きで現れてこちらはちょっと思考が飛びかけた。
俺は何処に居るんだ?と。だけどもジンネルは即座におはようなどと言ってくるから昨日の事を直ぐに思い出して俺は冷静にツッコミを入れたのだが。
「ああ!そうだね!じゃあ私がどうして意識が無くなったのかを先ず説明しよう!」
ソレはどうやらもの凄い情報量が頭の中に入って来てパンクしたかららしい。
「で、私はその情報を全てやっと今!先程!整理し終わったんだ!凄いんだよコレが!」
どうにもあの光は竜の持つ情報全てをジンネルに無理矢理与えたらしいのだ。
「今や私はね!竜と「認められた」んだ!そしてこれから神に会いに行ってくる!そして別の世界で私は見習いとして頑張る事になるよ!ありがとうサイトウ!君が私と出会ってくれたおかげだ!」
どうやら神の元に行くための次元を超える方法を取得できているようだ。そもそも「誰に」認められたと言うのか?そこを説明が欲しかったが、興奮したジンネルはそこをスルーだ。
「ハッキリ言って私が神様になれるかどうかは分からないけれど、それでも!やり遂げようと思う。竜の研究をこれまでしてきたんだ。ここでやりません、なんて言うのは研究者としての名が廃るよ!こことは別世界!研究!ああ!もの凄く楽しみじゃ無いか!」
研究馬鹿、ここに極まれり。究極の馬鹿とはこういった者の事を言うんだろう。
「じゃあ!もう行くよ。名残惜しいけど、サイトウ、君も元気で!」
どうやらもう行くようだ。お別れと言うのはそう言う事らしい。
俺があの「白龍」の時に見た黒い穴がジンネルの前に現れる。そしてそこへとジンネルは迷いも無く飛び込んで行った。
「・・・一方的に喋って、俺の別れの挨拶も聞かないで行っちまいやがった。まあ、そこまで親しい仲じゃ無いんだけど。まあ、がんばれよ。・・・疲れたわー。」
どうやらここでの俺の役目はこれだったようだ。洞窟内の光が少しづつ消えて行く。
「俺も山越えの続きをがんばるかぁ。」




