1251 それはもちろんソッチを取るでしょ
ザックリ言うと、森の丁度真ん中なのかな?と言った感じがした。しかし俺の目に映る景色と言えば地平線まで緑色なので本当に真ん中か?と疑問を呈する所だ。
じゃあ何故真ん中だと言ったのかと言うと、その地平まで木々が生い茂っている景色の反対側へと目を向けたら、同じくらいの距離に山が見えたからだ。
地平線に見えるそびえ立つ山。距離がここからどれだけ離れていると言うのだろうか?木の上に昇った上でのその距離である。
「あー、ここまで森が深いとか。それだけで自殺と変わらんなぁ?遭難確実じゃない?山に到着する前に森でヤバイとか?でもなあ?海の情報がちゃんとある、って言う事は最低でも一人は行って帰ってきたって事だろ?凄いな?あれ?山まで登り切って、そんでもって帰還するんだろ?化物かよソイツ?」
偉業だろう。それこそ俺の目に映っている山は連なっており、単品で「ドン」っと三角形が一つ見えると言った感じでは無いのだ。
何処までも連なって視界の端まで山が繋がっているのだ。連峰?これほどの人が昇り切るには厳しい山を乗り越えて海を見て、そして帰って来る。
ソレを偉業と言わずして何を偉業と言うのか?そこに山があるからだ、なんて言った人の名前は、はて、何と言ったか?
「でもなあ?この世界、魔法があるし、魔道具?なんかもきっとあるだろ?俺が想像するよりかはそこら辺は楽だったりしたのかなぁ?まあ、意味無いや。考えるのはヤメヤメ。」
海を見て、山を下山して、この巨大な森をもう一度抜けて街へと戻る。考えただけでどれだけの期日掛かったのだろうか?
そして今更その人物の名は有名であるはず、なのにその人物の名前を何故か街の人々の口からは一切聞こえてこなかったと言うのを思い出した。
「うわぁ・・・なんか裏があるよきっと。まさかコレが今回の?って事かよ・・・」
不安が募る。俺はこのまま山へと向かって良いのかどうか。しかし今の所それ以外に指針が無い以上は向かわないと話が始まらない。
もう既にここまで来てしまった。しかも戻るにしたって街への方向が分からない。見えるのは一面の森と、彼方にそびえる山である。
「そうなるとちゃんと見えてる方へと行くのが当たり前だよね。反対方向に行ったとしても遭難が続くだけだよ。あー、何がいけなかった?蟻?俺の安易な考え?マジで誰かのせいにしたい。」
未だに木に登ったままの状態で俺は少々の迷いを見せつつも、当初の目的を貫く事にした。と言うか、それしか無さそうだった。
「蟻にこれ以上邪魔されたくないし、「力」を使用して山を目指すか。もうあんな思いはしたくない。」
そうボヤキつつ木を降りる。山のある方向へと身体の向きを変えて森の奥へ、奥へと視線と集中力を向ける。
(じゃあ、改めて出発と行きましょうかね。と言うか、この状態で森の中を歩いて何かしらのヘマなんかすると森林破壊に繋がるからちょっと気を付けないと)
加速状態中に足をもつれさせて転んだ、なんて事になったらどうなるか分からない。
倒れないように目の前にあった木を支えにしようとして触れたりすると、解除をした時にその木がどうなるか分かったモノでは無い。
もしくは何となく木の根っこに足を引っかけてしまった、などもそうなるだろう。それらの何気ない「引っかけ」すらも加速状態を解除した時にどのような影響が出るか俺には想像できない。
それらが一気に解除で同時に動き出すとなると、もしかしたらこの森を破壊しかねないのだ。
(蟻か、森林破壊か、どっちを取るか。まあ精神衛生上の問題で森林破壊を取るけどね)
もう二度とあんな思いは御免である。なのでこの森が多少どうなろうと俺の知った事では無い。
自然愛護団体でも世界に有れば、今の俺を非難轟轟に言うのかもしれない。けれどもそんな団体に今まで一度も会っていないので大丈夫だ。
こうして俺は森の中を「力」を使ったままに進み続けた。
 




