1242 盛大にコケる
何とか裏口からぐるっと遠回りしつつも街へと戻る事に俺は成功する。しかしその後が問題だ。
「こっちの大陸から向こうの大陸に戻るには海を渡らないといけないよな?・・・で、どっちに行けばいいんだか。一応は聞き込みからか?・・・飯でも食おうかな。」
適当な良い匂いのする店を探してそこに入る。するとその店はずばり大衆食堂と言った感じの内装で。
「あら、いらっしゃい。適当に空いている席に座って。注文は後で取りに来るわ。」
そう言って看板娘だろうお嬢さんが声を掛けてくれる。俺は一番端の小さなテーブルにつくとメニューを見た。
「分からん。言葉は解るのに、文字が分からん。ここは奥義「おすすめお願いします」で行くしか無いか。」
そもそも文化が違うのであれば使われている言語も変わるはず。向こうでは気にしなくなり始めていたのだが、こっちに来てこうして文字の壁に躓いている。
城での書類仕事でほんのちょびっとだけ文字が分かるようにはなったが、ただソレだけだ。この食堂のメニューに書いてある料理の名前は読めない。
なのに何故かこちらの人たちの喋り言葉が理解できているのが何故なのかが不思議だ。共通語?いや、違うはずだ。こうして文字として書かれているモノが俺には読めない。それこそこちらのこの国で使われている文字が読めないくせに、喋っている言葉が解るなんて甚だ疑問だ。
発音などが変わっていてもおかしくないのに、喋っている言葉を聞き取れるし、理解ができている。おかしいのだ。
この国の人たちの喋っている言葉が向こうの大陸と同じというのは無理がある。それなのにご都合主義も極まれりと言った感じで俺がソレを理解できるのは流石に納得いかない。
湖での婆さんとの会話の時にでも気付いていてもおかしくは無かったはずだ。いや、ヒノモトの時に気付けと言う事である。
この国について団長の言葉が俺に理解できている所でギリギリ気付けよ、と自分にツッコミたい。自然と会話が他の人物たちともできていたので全く気にし無さ過ぎた。
「俺の脳味噌が変化してるのか?まさか「力」の使い過ぎ?・・・嘘やろ?使えば使う程に「ご都合主義」に傾いて行ってる?イヤイヤイヤ、マジでソレはやっちゃいけないだろ普通。」
こんな「力」を振るうと言う事はもっと盛大な「制約」とか「負債」を背負うなどのデメリットが起きるのがテンプレだろうに、それが「コレなの?」である。
力を使えば使う程に身体が「壊れていく」と言った様なマイナスが働くとか言うのがここでは妥当なはずであるのにもかかわらず「どうしてそうなる!?」である。
ある意味で「ぶっ壊れ」と言ってもいいだろう、というのはこの際どうでもいい。増々俺が「人離れ」「人外」になって行っている事に多少の恐怖が背中に走る。
「でも、今後力を使わない、って言う選択は絶対に取らないんだよなぁ。これもまたご都合主義だよ、ホント、全く。」
俺はテーブルに頬杖をついてブスっとした顔になってしまった。良いように使われている、そんな感想にイラついてしまったのだ。
「お客さん、決まったかい?・・・ああ、オススメね。ハイよ。父さーん、今日のオススメ一丁!」
俺の不機嫌など関係無い看板娘さんは俺の注文を厨房に届けるために大きな声を出す。
それが終わった後に俺は大事な事を聞いてみた。
「なあ、俺、海に行きたいんだけどさ。この店から出たらどっちの通りを行けばいい?」
言葉が通じる、良い事である。俺に何の不都合も無いばかりか良いことづくめだ。そう考え直して俺は大事な情報を収集する。
「あら?あんた珍しいね。海に行きたいって命知らずだよね。あんたが何処の出身だか知らないけど、冒険者でもやってるのかい?まあいっか。店を出てさ、右手の通りを真っ直ぐ行って門を出た道をそのまま行った大山を超えると海がある、っていう噂だよ。死にに行くようなモノだって言うね。それじゃ。」
そう言って他の客の注文を取りに離れていく看板娘さん。
「・・・おいおいおい。どう言う事です?そもそも俺って地理とか弱いのよ?この大陸ってどう言う形してんの良く分かんねぇぞ?」
問題が片付いたらもう一問題。どうにもこうにも、まだまだ情報をこの街で仕入れなきゃいけないようだ。




