1230 とうとうケツ巻くって逃げる決意が固まった
ゆっくりと味わいつつケーキを堪能する。そして名残惜しいが最後の一口を食べ終わった。
「ああ、もう一つイケ、いや、やめとこう。依存しても碌な事がねえや。こうして適度にしておいた方が身のためだな。うん。お茶も美味しかったし、コレで満足しておこう。」
本当に美味しいチョコレートなどは一粒だけで充分な満足感を得られると言うのを聞いた事がある。
しかし今まで俺はそんなモノを食べた事は無い。きっと俺は卑しい心の持ち主なんだろう、といった冗談を思い浮かべる。
「御馳走様でした。御代はいくらですか?」
「め、滅相もございません!王子様にこうしてウチのケーキを食べて頂いただけでもううちはこれ以上無い位光栄ですから。」
「あ、そう言うのは駄目です。ちゃんと造り手には敬意を払わないとね。ちゃんとそう言うのは代金としてしっかりと払わないと。・・・え?受け取れない?じゃあ無理矢理置いて行きますね。」
そう言って俺は金貨を一枚取り出してテーブルに置いて行く。そしてそのまま店を出た。
後ろでピーチクパーチク店員が言っていたが、それを無視して俺は歩き出す。
「じゃあ次は何処に行こうかな?まだまだ時間はあるだろうし。・・・って、あれ?どれくらいの時間で帰って来いとかの話はしていなかったな?まあ適当にでいいか。城は見えているし、そっちに真っ直ぐ向かえば迷わない・・・よな?」
かなり城から離れた場所まで来ている。遠くに城が見えていて、晴れだした空の雲間から差し込む日の光で美しく輝いて見える。雨は止み始めて小雨と変わっていた。
「外壁をぐるっと回って散歩でもしたらいい時間かな?あっちに言ってみるか。」
俺はとうとうこの国を守る外壁まで辿り着いていた。なのでこれに沿って歩いていればそれなりに時間潰しとなるだろうと思って。
やる事が無いのだ。考えていなかったのだ。当初はこの国に入ったら力仕事を探して働き、金を稼いで少々ここで滞在をしてからまた国を出ると言った感じで考えていたが。
今は「殿下」などをさせられていて困ったモノである。そんな状態でこの城下を歩き回る何て考えもしていない。寧ろ事前にこんな事になる事を考えておくなんてそんなの無理だろう。
ついでに雨だ。城を出てきた時には。露店も多少は出ていたけれどもこの様な雨の中なので無理してそう言った店を覗いて歩くような事もしなかった。と言うよりかはソレをしようとする前に騎士たちに見つかったと言うべきか。
雨がやんで来ているのでもしかしたら露天商などもまだこの後出てくるかもしれないと言った所はあるが、俺は諦めた。
「・・・もう戻ろうか。騎士はどうにかしたし、アレだけボコにして置いたら相当な時間は稼げるだろ。いいや、もう魔法カバンも回収してこの国から出よう。そうしよう。」
とうとう俺の心は放棄を選択した。これでもギリギリまで粘った方だ。俺はまだこの案件がキッチリと片付いていない状態でケツ巻くって逃げ出す決意をした。
とは言えこの「殿下」の状態を解除して貰えないとこの先も俺を見て勘違いする者たちが出てくる可能性が大きい。
なのでこの変装から先ずは解いて貰わねばならない。この国を出るのはそれからだ。後はチェルから代金を頂かねばならない。
「先立つ物は金・・・ああ、でもまだこの貰った金は充分に残ってるし、チェルからは貰わなくても大丈夫そうか?」
俺はこうして考え事をしながら城へと戻るのだった。




