123 自由と信用
翌朝は気分が絶好調で目が覚めた。フカフカ温かなベッドは全てを忘れさせてくれる睡眠をもたらしてくれていた。
だがそれも周りを改めて見回せばすぐに落ち込む。
(あー、そう言えばここ、城の中だったわ・・・)
窓からは淡い光が差し込み、城下町は段々と明るく染め上げられていく。
(どうすりゃいいんだ?まず歯を磨いて顔を洗って、それから・・・)
今後の予定なら本来は二日は街での観光に使うはずだった。だが今はお家騒動に巻き込まれて軟禁状態。
(コッソリ抜け出してこようかな)
そんな風に考える。結局の所は式典のタイミングに間に合えばいい訳だから城にこのままと言うのも退屈になってしまう。
そこにノックをしてからこちらの返事を待たずに部屋に入って朝食の準備をし始めたメイドに話を振る。
「俺たちのこれからの予定は皇女様からなんか聞いてる?」
その答えは俺の考えとは大きく違ったものだった。
それに答えたのもまた皇女自身でまた驚いた。
「式典は今日より三日後となります。それまでは自由にしていただいて結構です。夜にこちらに帰ってきていただく事は約束してください。あなた方の行動を制限することは一切こちらはしませんのでご安心を。」
テーブルに昨夜と同じように料理が並べられていく。
朝もエルフたち、それとレイカーナと共に食事のようだ。
「随分と信用してくれてるな。それじゃ早速、飯食ったら昨日の観光の続きをしてこよう。」
俺はてっきり監視されて軟禁状態だと思っていたのだが、レイカーナは度胸も一端以上を持ち合わせているらしい。
普通ならここまで話に踏み込んでいる人物が逃げ出さない様にとするものだが、彼女の器はだいぶ大きいようだ。
朝食も豪華だ、味も美味い。それらを良く味わいながら皇女の言葉に耳を傾ける。
「観光ならば中央の大噴水が良いですね。食事ならその向かいにある店が私のお気に入りなので紹介しますよ?あ、あとは有名な大商店やら武具店、土産物屋、などもあちこちに。後で一覧にしてお渡ししますね。」
「皇女サン?あんたやけに詳しすぎないか?気味悪いぐらい。それとまさかあんた皇族のクセに城下町を隠れて歩き回ってるんじゃ・・・」
顔を横へプイッと向けて「し、視察です」と言ってシドロモドロになっている。
分かり易すぎるそのお決まりの反応にキリッとしていた今までのイメージが台無しだ。
(見た目とは裏腹にとんだお転婆なのかねぇ。どこの御姫様だよ)
何処かのア◯ーナ姫様が頭に浮かんだがすぐに消す。
やはりその時もメイドのハンナが俺を視線だけで殺す、と言わんばかりの睨みをこちらに向けていたので早々に食事を終わらせるために朝飯を口に詰め込む。
食事を終えてお茶を一服して落ち着いたところで尋ねる。
「で、城の出入りはどうしたらいい?一々許可証なんやら案内なんやらが無いとダメか?」
「門衛に話は通してあるのでその案内に従って頂ければ大丈夫です。」
それは自由に出入りして良いと言っているようなモノだ。この対応はどうかしていると言わざるを得ない。
だって事情を知らぬ人物が俺たちを見つけたら「曲者!えぇい!皆の者、であえであえ!」とどこぞの時代劇になるだろう。
それを心配したが、皇女の鶴の一声でもう既に通達はできているとの事だった。
そんな今、俺たちは昨日に続き、観光と買い物をしている。効率を考えて全員に金を持たせて四方八方に散って行かせてある。
全員まとまっていると目立つし、何より移動が鈍くなる。街中は商業都市と同じかそれ以上の人だかりだ。
いわゆる商店街の通りはごった返していて、人波に流されながら視線をいろんな店に向けて楽しむ。
そんな所だからだろう。ここでもテンプレに出会った。
(何でスリなんかにピンポイントでエンカウントするんですかねー?)
しかも盗まれたのは小銭を入れた俺の財布。よりにもよって。
何で気付いたかと言えば、セレナだったんですけども。俺は全然気付かなかったんですけども。
「主様、この落とし前はどういたしますか?この場にて血祭りにあげて見せしめに・・・」
「おい!何でそんなに過激発言!?いいよそんな事しなくて。だけどまあ金は返してもらうけど。」
何故かセレナが最初の頃より人が変わっているように見受けられるのは気のせいか?
なんて思いつつも、どんどんと人混みの中に潜っていく少年への視線は外さない。
そのまま見失わない様に静かに追いかける。チラチラと振り返ってくる少年に「まだ気づいていない」と思わせながら。
(しかし、何だろうね?犬も歩けば棒に当たる?当たり過ぎでしょ。村から出たらまあ色々あるだろうとは承知していたけど、こんなパターンは想定すらして無いな)
村を出たすぐ、最初期の俺のプラン的には、たとえ行き当たりバッタリな楽天的な考えでも、商業都市で今頃はとっくに職を探してそれに就き、仕事をして普通の暮らしを目指していたはずだった。
それが今は何の因果が巡ってきたのかと、スリに遭ってそれを追いかけている。
(誰を恨めばいいんだか・・・)
少年が細い路地に曲がっていくのを見て急ぎその道に俺たちも入った。




