表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1218/1346

1218  王子様継続

 その後は本当に何もせずに刺客を解放した。この事に「本当にやりやがった」と言った顔をしながら刺客が廊下を行く。チラリチラリと、未だ開いた扉の前で「じゃあね」と手を振る俺たちを振り返りながら。


「さて、どうなっかな?トイレンとかきっと真っ先にここに来るぞ?そうなったらあの変人は静かに怒るだろうなあ?でもその怒りをぶつける相手がいないからな。クソ殿下は未だ行方不明、ってな。」


 チェルが楽しそうにそう吐き出す。どうやら相当なストレスを今まで抱えていたようだ。こんな時にこの様に楽しそうに言うチェルは本当にキレているんだろう。


「じゃあ書類の整理の方の続きをしようか。まだまだコレはどうにも減りそうに無いしな。」


「お前、別に仕事しないでもいいんだぞ?変な所が律儀だな?もうこの後は城内はドタバタすんだろうから、その隙に逃げちまってもいいぞ?」


「いや、あのさ、お金貰えないと俺この先に先立つ物が無いんだけど?チェルが俺に言ったんでしょ?」


 コレに「ああそういやそうだ」とソレだけを言ってチェルは扉を閉める。俺も書類箱を一つ取って椅子へと座った。


「一応はこれも仕事、って事で。何処まで行ったらこの騒動が終わりになるかは知らんけど、それまでは付き合わさせて頂きますよ。もう自棄だ、自棄。乗りかかった船はもう沈むの確定みたいだけどさ。金を貰えなけりゃ割に合わん。どれだけ貰えるかにもよる。もし少なかったら俺、暴れちゃうよ?」


 こうして俺は王子様役をまだまだ続けると宣言する。


「あー、そうだな。沈み始めてんな。まあ溺れる前に泳いで逃げろ。お前はそんくらいの力を持ってんだろ?自力で何とかしのいでくれや。金は必ず渡すさ。これでも今、私はちょっとだけお前には「悪いな」って気持ちは持ってんだ。約束は破らねーよ。それにしてもお前一文無しだったのか?そんな事でこの国に入ろうとしてたとか、頭おかしいのか、お前?」


 コレに余計なお世話だと俺は言い返せなかった。こうして王子様の身代わりをする事になるなどと、あの時に予想できたはずが無い。

 お金無いけど、どうにかこうにかできるんじゃないか?そんな楽観した部分が無かった訳でも無い。

 そもそもこちらの大陸にワープしてきたなどと言った良く分からない事が原因で今ここに居ると思うと、俺の思考一つでどうにかできる範疇を最初から越えている、と言うのが実際問題だ。


「あー、いや、話せば長くなるし、それこそこんな事を信じて貰えないだろうから何も言い返さないけどね?こっちも色々と苦労が有るんだよ。察してくれ。」


 何の説明も無いのに察しろとは無理があるだろうが、チェルはその重々しく疲れた様にそう言った俺を見て一言。


「お前もどうやら変な人生歩んでるみてーだな?まあ、そこら辺私が詳しく聞いてもどうにもできねーし?まあ、ご愁傷様?」


 お前も、と言っていると言う事は、チェルもその「変な人生」を歩んでいたから今ここに居ると言う事であろう。

 その事に俺が何か言える訳でも無いので掛ける言葉は無い。要するに、お互い似た者と言う事でこれ以上はこの話題を掘り下げないで行こうと言う事だ。


 こうして俺とチェルは次々に書類をチェックしていく。


「あー、さっきの刺客は今頃は城中に偽王子の件をバラ撒いてんのかな?」


 書類箱を三つ程空にしたくらいには時間が過ぎていた。そしてその時にふとそんな事を口走った俺。

 そう、フラグである。無意識に出た言葉であったが、俺が言い終わった瞬間に扉が激しく叩かれ始める。


「あー、あるよね?言った側からフラグ回収、って。嫌だなあ?開けたく無いなぁ。」


「殿下!いらっしゃいますか!・・・くっ!扉が開かん!鍵が閉まっておる!殿下!お話がありまする!殿下!」


 こちらが返事をしないでいる事でずっと扉を叩かれ続け、しかもついでに「殿下」と叫ばれ続けるので俺はコレにうんざりしつつも覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ