1214 まだまだこの茶番に付き合う事にした
流石にこれには俺も驚く。だって団長が俺に乞い願った要求、アレを口にしている時の顔はどう見ても本気だった。嘘の顔では無い。
その事を考えると「まさか」と思ってしまうのだがチェルが調べて来た事を否定もできない。もしかしたら団長は「演技」をしていたかも、といった考えが浮かぶからだ。
騙された?いや、この場合は見抜けなかった、が正しいのかもしれない。あれ程の迫真の演技を見抜けたなら相当な「疑心」の持ち主か、もしくは人間観察が余りにもずば抜けた者にしか無理な話だ。
「で、それはまあ調べた結果?何だろうけど、その裏は?どう言う理由で団長は裏切ったと?・・・あー、そもそも団長が最初から第一王子様の味方でも何でも無かった、って言うのもアリか。」
「何だい、理解が早いじゃないか。話が早い。まあ私が城を出る時に団長が門の所まで来ていてね。だけど、私の事に気付かなかったのか、共にしていた自分の部下だろう騎士との会話がたまたま聞こえちまった。」
どんな話をしていたのかをチェルは勿体ぶるように一拍開けてから話始める。
「殿下を早く見つけだし殺せ。もうこうなれば市民の家を片っ端から探すしか無い。あの影武者がボロを出す前にだ。ついでに影武者にはもう今の状況で刺客は送ってある。早い所こっちが見つけなければ時間が無い。影武者を殺した死体は隠してしまい時間を稼ぐが、それでもまだどうなるか分からん。急げ。」
俺はこの言葉にどう言って良いか分からない。もういい加減俺の正体をバラしてしまってもいいかな?と思ってしまう。
これほどに酷い状況でまだ俺が殿下の代わりを演じている必要性は?と考える。もうどうにでもなってしまえ、といった気持ちで一杯になりかける。
ソレを止めたのはチェルだ。俺に一言だけ「報酬」と伝えた。
「なあ?団長から報酬の件が有るんだろ?それがパァになっちまったって事だよな?じゃあよ、私がお前に金を出すからまだこのまま「殿下」をやっててくんねぇか?」
チェルは団長をもう「さん」付けして呼ばない。敵だと分かったからかもしれない。そしてチェルから求められたのは殿下を「続けてくれ」と言う要請だった。金なら自分が出すともついでに。
「この今の状況は敵さんの想定外だって事だ。もしかしたらもっと早い段階で、それこそお前がこの国に来るもっと前にクソ殿下は殺されている予定だったのかもしれない。なら、相手の予定がここまで崩れている状況なんだ。あっちがボロを出して慌てふためく様を見るまではおちょくってやりたいじゃないか。」
意地の悪そうな表情を浮かべるチェル。どうやら俺の前では少々感情を出してくれるようになったらしい。
コレに俺は同意をした。何せ俺も今「どうにでもなれ」と暴れる寸前だったからだ。
こうしてチェルが相手の吠え面を見れるまで粘りたいと言ったのならソレに付き合うのもやぶさかでは無い。
最終的に俺が「爆発」するならば、もうここまで来ると「最後まで付き合う」と言った位はしてもいいだろう。
爆発するなら限界を超えてから。どうせなら今のこのストレスを全部発散させる勢いでここは我慢のしどころだ。
「わかった。それで良いよ。その代わりに俺が暴れても良い場面になったらちゃんとチェルが言ってくれよ?俺今もこの状態で結構アブナイからな?」
この俺の言葉に「危ないって何だよ?」とだけチェルは口にした。




