1211 なんだかどうにも腐りかけ?
昼寝でもしていようかと考えながらチェルの出ていった後に扉の鍵を閉める。カチャリとしっかりと鍵を掛けるためのつまみを回して俺は椅子へと深く座って腰を落ち着かせる。
「いやー、参ったなぁ?団長は帰ってこない?チェルはお出かけ。もしかしてここでもしトイレンが来たりしたら俺、絶体絶命?いやいや、そんな大げさな事じゃないか。別に黙ってここに座っているだけで良いだけか?」
居留守を使うか?と思ったけど、それもそれでマズイ様な気もしてくる。対応しない、それは明らかに不審な態度として捉えられてしまう。
トイレンは国王の右腕と言う存在だ。そんな相手をいくらこちらは王子様とは言え、無視を決め込むのは余りにも不自然だ。
「夕方に帰って来るって言ってたけど、それまで暇すぎる。まあ少しだけ書類の方に目を通しておけばいいかな?」
俺は一つの箱から書類を取り出す。何枚か取り出して見てみた時点でおかしな事が出てくる。
よくよく見てみれば同じ文字で、同じ筆跡。そしてここまでずっとこうして書類の文字を見続けてきた事と、今までチェルが内容を読み上げてきてくれていた事で、何となく内容がほんのりと今の俺でも分かるくらいになっていた。
「何で同じ内容の書類が何枚も出てくるんだよ?・・・日付が同じだぞしかも?修繕の話か?兵宿舎?の壁の?うーん・・・しゅ、しゅう・・・修理?・・・この書類をこっちに回した奴は阿呆なのか!こんなのは回す部署がしっかりとあるはずだろうが!王子様がこんな事に一々許可を出したりせずに予算が専門で組んで有るだろうに!そっちに回せって!」
思わずツッコミを入れてしまう。この修理費の件は何処まで話が行っているのか?ここでまさか止まっているんじゃないだろうな?と少々不安になる。
「俺が何か言う立場に無いんだけどさぁ?コレは流石に兵がかわいそうじゃない?壁の修理とかソコ、今も直って無くてクッソボロボロとかだったらちょっとなあ?」
もしかしたら予算部署の方にこの書類が行っておらず、ここで処理が止まっているかもしれないと考えると流石に俺も会社員時代を思い出してちょっとどころじゃ無く引く。
他にも似たような書類が無いかどうかを確認したらあれよあれよと出てくる出てくる。
「嫌がらせ、か。普通じゃねーや。何だって一体こんなになってるんだよ。・・・まさかなあ?多重請求をまさか止めてあるのか?王子様がワザとやってる?」
予算を引き出して自分の懐に、なんて小狡い事を考えてこうして何枚も同じ書類を出している者が居る?とまで考えて俺の口から「小せぇ」と小声が出る。
横領のやり口が杜撰だし、雑過ぎる。もしかしたら王子様が城下を毎度の事歩き回っている事実がそうさせるのかもしれない。もしかしたらこの山盛りの書類に王子様がしっかりと書類を見ないで許可出しして金が降りるかもしれない、などと考えて。
「ソレにしちゃあ程度が低すぎる。・・・ん?書類の名前がそれぞれ出してる奴が違うのか?あーよく見たら日付も微妙にズレてる?コレは・・・」
どうやら代表して責任者が書類を作ったと言った事では無いようである。もしかしたらその代表が職務怠慢で壁の修理請求をしておらず、堪らずに責任者で無い他の者たちがこうしてバラバラに書類を出してきている可能性が出てきた。
「どうなってんだよ・・・クッソ腐敗してる?あれ?チェルの口癖がうつったか?」
クソだ何だと俺の口から迸る。でもどうしようもない。ここにどうしてこんなくだらない書類が紛れて溜まっているのかの詳細が分からないし、そもそも俺がそれを知る必要も無い。
そんな風に思って書類を箱に全部戻すと、そのタイミングて扉がノックされた。
「殿下、いらっしゃいますか?鍵を開けて欲しいのです。お願いしてもよろしいですか?」
ソレはチェルの声だった。




