1210 この後どうする?
それを俺は素直に聞いてみる事にした。「チェルって何者?」と。
しかしこれには良い御返事は返ってこなかった。しかももの凄く不機嫌な空気を醸し出して既にチェルはいつもの笑顔へと戻っていた。
「テメエがドンダケ化物かは分かった。アタシが密かに守ってやらなくても良いだけの実力があるって言うのもな。もうちょっと気楽にやらせてもらうぜ。あーくっそ!ムカつきが治まらねーよ、この野郎。」
どうやらチェルは俺の監視と共にある程度の「護衛」もしてくれていた様子だ。それはそうだ。昨日の夕食の事も考えればあの時にはチェルは「殿下」への毒殺の事を話してくれた。危険があるぞ、と。
恐らくだが昼飯を作りに行って消えていた時間にあの三人が刺客としてここに現れたのはどうにもチェルの想定の外の事だったようである。
まあそれはもう過ぎた話なので俺はソレは気にしない。俺は只の影武者で、それ以外の部分に余計な踏み込みをしないでおく事に専念するのだ。
だけどこれだけは言っておかねばならない。チェルに俺はサンドイッチを頬張りながら言う。
「信頼してるよ。俺、こう見えて毒とか仕込まれていても見抜けずにそのまま食っちゃうだろうし。そこら辺をチェルが警戒してくれていたら安心だ。そこだけ頼らせて。いや、ホント、マジで死ぬ事になるから俺。シャレにならんしそこだけは。」
俺が死ぬならそこら辺で殺されるだろう、と言った事をチェルに伝える。気楽にやらせてもらう、と言ったチェルにしっかりとここだけは知っておいてもらえないと後々で「伝えておけばよかった」などと言った後悔をするかもしれない。そうならないためには事前に「これだけは駄目」と言っておかねば後で「知るか!」と言われてしまう。
「そんくらいは分かってるってーの。あのクソ殿下の飯はずっと私が世話をしてきてるからな。それについては抜かりはねーよ。ッたく、いきなりかよホント。婚約破棄のお次は暗殺騒動?馬鹿かよホントにこの国はよー。もー、くっそメンドイ!」
悪態ばかりつくチェルは自分の食べる分のサンドイッチをぱくりと一口。その後はもぐもぐと咀嚼し続けて黙る。神妙な顔つきで。
お互いに昼食をもぐもぐと食べながら会話を続ける。
「なあ?お前、さっきの三人くらいだったら一人で片付けられるんだよな?じゃあ、限界で何人いける?」
何の意図をもってそんな質問をチェルがしてきたのかは分からない。なのでここで俺は正直に言ってみた。
「んー?まあ、正面からなら何人あんなのが纏めてこようが全部返り討ちにできるけど?まあ不意打ちされたりすると困る。それを気付けなかったら俺、死ぬね、簡単に。」
俺は不意打ちにも弱い。意識できない、全く気付ける事の無い即死の一撃を入れられようモノなら、俺は簡単に死ぬ事になる。
この俺の答えにチェルは「嘘じゃないだろうな?」とだけ。コレに俺は嘘を今この場で言う意味が無いとキッチリ言っておいた。
「じゃあ夕方に戻って来るからその間この部屋から出るな。私はちょっくら出かけてくるからよ。鍵も一応掛かるから誰もこの部屋に入れんな。行ってくる。」
「あ、そうすると仕事が先に進まないんだけど?・・・あ、それ持って行くの?用事のついでに突っ返してくる?じゃあ今日はもうこれ以上は仕事はそこまで進まないでも大丈夫かね?じゃ、行ってらっしゃい。」
俺はそう言って「返却」と書かれた書類の入った箱を一つ持ったチェルが出ていくのを見送った。




