1208 今度は一体何だって言うんだ?ああ、いつものヤツね
続いて左、右と順次その鎧をペシっと指で弾く。さてコレでもうこいつらは吹き飛ぶだろうと思われる。一旦の安全は確保した。
(ああ、ここでこいつらに斬られて殺されたフリして王子様が死んだ事にしたら、こいつらのご主人様とやらが派手に動き出したりして分かりやすかったかも?)
こいつらを差し向けてきた奴を誘い出す、そんな手もあったか?と考える。
でも、そうした演技は自分の命をギリギリまで危険に晒す事にもなる。俺はそれを上手く熟す自信は無かった。この考えはさっさと捨てておく。
「じゃあお前さんたち、ここで洗いざらい吐いてくれはしないか?そうで無いと君たちは牢に入れられて拷問でも何でもされて痛い目を見る事になるんだけど。それは嫌だろ?こっちもこの場で素直に君たちを差し向けた者の名を言ってくれたら多めに見てやれるんだけど。」
がしゃん、と三つ同時に床に鎧が打ち付けられる音が響く。扉は開けっ放しだ。廊下ではその音が派手に響いて何処からともなく「何事だ!?」と慌てた声がし始める。もう暫くしたら兵たちがこの部屋へと集まってくるだろう。
そんな風に考えながらも、この三人の装備している鎧を見る。そこには胸の部分に「紋章」が彫られているのだが、俺にはコレがどう言った意味なのかは分からない。
もしかしてこいつらが欺瞞工作でこの暗殺に全く関係無い貴族の紋章を刻んだ鎧を着ているのかもしれないし。
もしくは本当にこちらの命を狙う黒幕の物であるかもしれない。
有り得ない事、なんてのに近いかもしれないが、「アレクサンドロス」は命を狙われているんですよ、と言った注意を促すためにこいつらがドッキリを仕掛けて来たと言った可能性も微レ存。
まあ本当にそんなドッキリなどをされるのは「アレクサンドロス」が本当は部下に好かれているのか、それともそもそも嫌われていて諫言としての大胆な行動であるのか。
諫言の代わりにこんな行動を起こしたと言うのであれば、それこそソレだけ強い忠誠心の現れとか言った物になるのだろうか。
考えても意味の出ない事を思い浮かべ始めてしまう。所詮俺は「本物」では無いので、ここでどのように動くのが正解かも導き出せない。
吹き飛ばされた三人の方はと言うともう既に立ち上がっている。どうやら相当良い鎧を着ているらしい。鎧が恐らくは衝撃を大幅に吸収して中身にまで伝えずに耐えたのだろう。
それかもしくはこの三人が随分とタフなのだろう。それか両方か。だけどまあどのような方法で吹き飛ばされたのかが分かっていないようで、困惑の表情は隠せないで顔に出ている。
「さて、おそらくだけど直ぐに逃げ出さないとここに兵が集まって来て君たちは袋の鼠になるだろう。あ、自害とかは止めてくれない?この部屋が汚れて血の匂いが取れなくなるくらいだったら見逃すから。さっさと消えちゃって。」
多分俺が「こんな格好」じゃ無かったら出てこなかったセリフだ。俺は今「殿下」を演じている。本人がどんな性格の人物なのかすら知らないのに、だ。
恐らくだが俺が元の姿であったら多分「見逃す」なんてのは口に出していないと思う。気絶させて問答無用で兵に突き出して捕縛させていただろう。
そして俺は今喋ってしまっている。声が全然違うと言われていたから、そこから俺が「偽物」だとバレる可能性は高いと言われたのに。迂闊すぎるけど今の俺はそんな事に気付いていない。
でも運が良かったのか、この男たちはどうにも俺の声が違う事など気にしたり、気付いた様子が無い。もしかしたらこの三人は直接この「殿下」の声を聴いた事が無いのかもしれない。
そして俺の言った言葉に少々の怒りを覚えながらも直ぐにこの三人は部屋から逃げ出していった。




