1201 ある意味での戦いの始まり
主役は余り早くに会場入りしないそうで小さな待合室で待機させられた。チェル、そして団長だけが「殿下」の付き添いとして一緒にここに居る。
しかし会場に入る時は一人で行かねばならず、どうやら最初は広場中央に出る事となっている。
「なあ?そこでもしかして「感謝の言葉」とか言わないと駄目だったりしない?ソレで速攻バレるんじゃない?」
「朝から喉の調子が悪いとか言って誤魔化せよ、そんくらい。一々聞くなって。その場の機転で乗り越えてこいや。」
チェルは「殿下」へイラつきをぶつけつつそう言ってくる。勘弁して欲しい。俺は俺であって「殿下じゃない」のだから。
それを解っていても多分そっくりそのまま大嫌いな人物の顔が近くに有るからしょうがないのかもしれないが。
「一応は国王陛下が誤魔化していただける流れになっています。事前に秘密裏に報告をしに行った際にその相談をしました。なので恐らくは・・・大丈夫かと。」
団長はしっかりとそこら辺を考えていてくれたのだろう。彼はこのパーティーの警備上で「流れ」と言うモノをしっかりと把握しているはずである。なので事前に王様に「どぎゃんしたらよかと?」と予め相談を振っていたようだ。
だけどソレを言うのが遅い。今ここに来てから言わずにもっと前に行ってくれていたら俺だって緊張を幾分かはしないで済んだのに。
そしてどうやら王子様も会場入りしないといけない時間になったようで、部屋に使いが来る。
「そろそろお時間です。よろしいですか?」
そんな短い一言だけ、この部屋の扉の外から掛けられた。コレに団長が「分かった」とだけ返すとその使いの気配が遠ざかっていく。
「ではここからはチェルが会場前まで案内します。そして扉の先からはお一人で、と言う事に。・・・本当に、スマン。」
そう言って部屋を出ていく団長はどうやら他の警備の場所で一仕事有るらしく会場とは別の方へと去っていく。
「おらおら、ぼっとしてないで行くぞ。ケツを蹴り上げられたいのか?ああん?」
俺にそんなドエムの趣味は無い。なので別に脅しに負けた訳じゃ無いがスタスタと会場へと向かう廊下を歩く。
もうこうなれば自棄だ。何かあったら本気で逃げ出そうと考える。とは言っても何だかんだ行って、今までにも同じように考えて事に臨んだ事は幾度もある。
その旅に「逃げよう」と思っていても実際には逃げたりなどはしないでいたので、今回もどうやら事の「最後」まで付き合わされるのだろう、きっと。
そして扉の前へと到着した。デカイ。無駄にデカイ。両開き扉で騎士が二人付いている。そしてその騎士が二人同時にその両開き扉を全開する。
そこには目に刺さってくる光の乱舞があった。シャンデリア、白い壁、黄金に輝く装飾、この場に招かれたのだろう貴族の着ている服の装飾の金糸銀糸、テーブルに並べられた豪華な料理たちを乗せている銀皿等々。
慣れていない俺にとってソレは思わず目を強く瞑ってしまうものだった。しかしそれも一瞬だけ。それらを我慢して俺は薄目を開けて不自然にならない程度に間を開けてから会場中央へと歩く。
(堂々と、タダ真っ直ぐに歩いて、ゆっくり歩幅は小さく・・・で、背筋はピンと伸ばして正面を向いて顎は引き気味にキリッと・・・)
俺は自分の中の勝手な王族の威厳とやらを醸し出せるようにと、そう言った注意をしつつ会場入りをした。




