1197 誕生会の時刻は迫る
俺はそこで思わず「ん?」と思いっ切り反応が遅れた。と言うか、心が聞こえないふりをしようとした。
「誕生日会?まさか?ソレに、俺が、出るの?え?俺の見た目はどうやって変えるの?見ての通り、団長さんも言っていたけど、髪も目も、俺黒いんだよ?どうやって誤魔化すの!?」
そんな催し事に人が集まらない訳が無い。そんな衆目に曝される場所で俺のこの見た目でどうしろと言うのか?
「ああ、そう言えば、貴方はどうにも似ていないですね。そもそも声が殿下とは似ても似つかない。」
「心配するのソコかよ!って言うか!もう城に着いちゃうじゃん!?・・・方法が有るから落ち着いているんだよね?はァ~、焦ったわ。つまらない事で焦ったわ。」
顔が似ているからってその他もろもろがこれだけハッキリと違うのだ。それらを誤魔化せる方法が無ければ俺の事をこうしてまず最初から「捕獲」しようとすらしないはずだ。
「あれ?じゃあ俺ダンスとかする事になったりするの?しかも声が違う?え?じゃあ俺、迂闊に声すら出せない?何があろうと黙っとけ、って事?・・・無理じゃね?」
「申し訳無い。そこまでは思いつかなかった。・・・なんとか乗り越えて欲しい。」
「ここにきていきなり俺の方に全部ほっぽり投げて来たよこの人!?」
非常に小さい、だがしかし重大な「声」と言う問題。トイレンには絶対にバレるだろう、一言でも喋れば。
そんな事をやり取りしている間に馬車は城の門を通っている。もう既にここまで来ると戻る事も、また時間稼ぎもできなくなる。
馬車が止まり、団長が先ず降りて周囲の警戒をする。こうして馬車の扉が開いてしまえば「俺」は「アレクサンドロス」として演技をしなくちゃいけなくなる。
そうなると必然的に団長の方も王族を警護しています、と言う形を取らないといけない。「偽り」がバレてはいけないのだから。
馬車から降りた「アレクサンドロス」はそのまま団長に案内されて「準備室」に入る。そう、この誕生会の主役は「アレクサンドロス」だ。ここでおめかししてから会場入りなのである。
その部屋にはメイドが一人。ニッコリとした笑顔で可愛らしい雰囲気のフワフワ系なメイドさんだ。
「おかえりなさいませクソ殿下。毎度二度と戻って来るなと思っているのに、こうしていつも帰ってきちゃうのはどうしてなんですかね?このクソ王族が。私の仕事はお前の世話だって言うのに、お前が居なけりゃこっちは仕事にならねえばかりか、周りから文句がうるせえんだよこのスットコドッコイ。そんな文句を私が言われない様にするにはお前があの世に行ってくれりゃ良いだけなのに、毎回騎士団に迷惑を掛けて戻ってきやがって。何度、殿下の首を絞めてやろうと思った事か。いくら優秀でも私に迷惑掛けんじゃねえよ。ただそれだけで王族だと言えども敬愛できないって、いつも言ってんだろうが。戻って来るくらいならずっと城の中に居ろやボケナスが。」
俺、ドン引き。いきなり満面の笑みでこんな毒をぶつけられた俺は、脳内で何かがゴリゴリと削れる音が盛大に響いたのが聞こえた。




