1190 たった今、婚約破棄されました(いきなりこんなパーティーでする話じゃねえ!)
「貴方との婚約は今この場で破棄させて頂きますわ!」
パーティー会場の中央でそう叫ぶ一人のご令嬢。彼女の名はミリアーネ。公爵令嬢である。
この宣言を受けたのはこの国の第一王子「アレクサンドロス」と言う。本日はこの第一王子の17歳の誕生パーティーだ。
王子様の誕生日を祝うために招待されたこの国を支える貴族たち。その数は多いがそれでもまだまだ余裕がある程にだだっ広く豪華なこの場所は王城の一部屋、こういった催し事に使われる場所だ。
そんなパーティーの最初で王の挨拶、王子の挨拶がされる前にこの公爵令嬢ミリアーネは第一王子との婚約破棄を大々的に宣言した。
コレはタダならぬ事である。そして余りにも場違いだ。そのような事を王子の誕生パーティーでこの様に発表する必要が無い。
そんな必要が無いはずの事だからこそ、この場に居る貴族たちは「何事か?」とより一層の注目をこの会場ど真ん中に集める。
一番目立つであろうこの会場の中央に第一王子、侯爵令嬢、そしてもう一人、男が立っている。
この視線は三人に否応なく注がれ、次に何が飛び出すのかと、ガヤガヤとした貴族たちのさえずりは急速に鎮まっていく。
「兄上、貴方は普段から王族としてあるまじき振る舞いを為さってきています。それを諌められても、いくら注意されても、その態度を改めようとは為さいませんでした。そのようなふざけた者は次の王として相応しくないと判断します。因って私はこの場で兄上、貴方の次期国王としての継承権を認めず、私こそがその座に相応しいとここで宣言させて頂く。貴方に着いて行く部下、近衛、貴族は一人もいない。貴方の普段のおかしな振る舞いは既にここに集まった者たちの耳に既に何度も入っている事でしょう。そんな愚かな者に付いて行く者など存在しない。ミリアーネ嬢はそんな貴方には勿体無い方です。王の資格が無い兄上に嫁がせるなどと言った馬鹿は許されない。こうして婚約破棄をこの場でしたのも、貴方の愚かさを示すためです。そして今日のパーティーは私とミリアが新たに婚約する事を祝うパーティーに変ります。この祝いの場に貴方の様な愚者は要りません。退場願いましょう。」
会場中央で一人高らかに声を上げ、そう言って第一王子を排除する演説を行ったのは第二王子のガインネル。
この演説は静まり返ったこの会場に隅々まで響き渡った。ここに居る貴族、その誰の耳にも漏れずに届いている。
「既に国王陛下と私の父上には相談済みです。双方ともにお許しは出ております。もう貴方とは婚約者ではありません。わたくしは今この場をもってしてガイン様の婚約者ですわ。」
ミリアーネ公爵令嬢はそう「アレクサンドロス」に言い放つ。その後はガインネルの腕を取って身体を密着させて潤んだ瞳で彼の顔を見あげていた。
ミリアーネはストレートロングの髪を夜会巻きと呼ばれる頭後ろに髪を纏め上げる髪型になっている。
着ているドレスも煌びやか過ぎて眩しいと言った印象だ。金糸銀糸をふんだんに使い、所々宝石もちりばめられていて、その生地も純白で目が痛い位だ。
そんな彼女に合わせた衣装のガインネルは短髪で、整髪料で後ろに髪を撫でつけて綺麗にオールバックにしてある。着ている服装もミリアーネと合わせたようなキンキラキンに真っ白な純白でこれまた目に痛い。
まるでこれから結婚式でも上げるかのような衣装を二人はしていた。
「貴方は護衛をいつも巻いて街中へと紛れ込み、自分の身分すら忘れ一般人に紛れ遊び放題、放蕩三昧。ましてや時には野蛮人間まがいの行為をしていましたね?魔物を自らのその手で倒すのが王族も役目ですか?ソレは違うでしょう?貴方の行動は余りにも愚かで行き過ぎている。国王陛下から直接私は言われています。「お前が王になれるのならば容認すると」。コレは要するに第一王子としての責務を放棄している貴方は王にはなれないと言っていると言う事です。お分かりになられましたか?兄上?」
第二王子、ガインネルは第一王子に言いたい放題だ。先程から正論を振りかざしている。でも、そもそも国の運営とは時に「正論」だけでは動かせない事もしばしばあるだろう。
だけどもこの場に集まっている貴族たちは誰もが皆ガインネルの言葉に賛同してウンウンと顎を上下させていた。
ここで国王陛下が発言する。しかしそれはガインネルの「お前は出て行け」と言う所を否定する言葉だった。
「皆の者、今日はバカ息子の十七の祝いに集まって貰い、嬉しく思う。今日は思う存分に飲んで、食べて行ってくれ。これからもアレクをよろしく頼む。」
この言葉にはガインネルも、ミリアーネ公爵令嬢も、その他、この誕生会に集まったこの場に居る貴族たちも驚いた顔になった。
第一王子と侯爵令嬢との婚約破棄を王と公爵は「認めた」といった旨がミリアーネ嬢の口から直接出されたのに、その事は別段何でも無い事だと言わんばかりに国王がパーティーの開始を宣言したからである。




