1182 まだまだ足りないようです
(まあアレだよな。こんだけピカッと光ればすぐに察しはつくよな。でも・・・)
「見せられないよ。話し合いもできないようなこんな状況じゃ、な。とりあえずはちゃんと婆さんが交戦派を抑え込んでくれるって約束してくれるなら俺もここを直ぐに出ていくし。あ、ちゃんとここの事は誰にも話さないから安心してくれ。話をしたところで俺に利する事なんて一つも無さそうだしな。それにここに住んでる人たちにも迷惑を掛けたいとは思わないから。」
「そんな事を信じられる訳が無いだろうが!長!こうなったら一斉に全員でかからないと駄目だ!ここでこいつをしっかりと仕留めておかなきゃ!」
ユレールだけが声を大にしてそう訴える。でも周囲の男衆はそんなユレールが大声を出せば出す程に冷えて行っている様に俺には見える。
そして誰も喋らない時間が少しだけできる。だがここでまたしても俺の懐が、卵が光った。
「あんた、まだ魔力を吸収するつもりなのかい?この勢いだと・・・私の張った結界の魔力を吸い取るつもりかね?」
「誤解だと言っておくよ。コレは俺の意思でやってる訳じゃ無い。まあ信じられ無いだろうけどね。」
一言だけそう言っておいた。何も言わないでおくとそれもそれで全部俺のせいだと言われそうだったからだ。
コレに婆さんが眉根を顰めて俺を睨んでくるが俺は自然体を心掛ける。何せ俺が悪い訳じゃ無いからだ。
しかしユレールはと言うと俺を一層睨んできていてその形相は鬼と化している。
「この野郎!こっちが何もしないでいれば付け上がっているのか!誰もやらないんだったら私がやる!」
ユレールは我慢できなかったのか、そう言って剣を振りかぶって斬りつけてくる。
でもそれは素人の、お粗末な斬り下ろしだった。剣の重さに振り回されていると言ってもいい。剣筋は立っていて刃はしっかりと俺の方を向けていたが。どうにも剣の「抑え」が効いていない。
振った剣の重さで前のめり気味になっていてしっかりと腰が据わっている一撃とは言えなかった。
俺はそれをヒョイと横に飛んで躱す。でもそれはユレールには想定内だったのだろう。そのまま躱された剣を横薙ぎへと変えて俺の胸元目掛けて振り込んできた。
ソレは最初から卵を狙っていたというのが分かる軌道だった。なのでそれを俺は剣が届く前にしっかりとユレールの腕を掴み上げて捻って反撃とした。
「グッ!くそ!その光っているヤツを壊せばお前なんて長の魔法で直ぐに潰してやれるのに!」
考え無しなのもこうまで来るとあっぱれだ。今はユレール一人の犠牲で何とかなる場面でも状況でも無い。
そして俺がここでやられて倒れたとして、それで全部片付く案件な訳でも無い。
そんな間に卵の光は落ち着いてしまった。どうやらこの周囲に有る魔力を全て吸い取ったようだった。
背後の森を見てみるといつの間にか霧が晴れていた。しかし範囲としてはこの場だけに留まっている様子だ。他の場所の霧はまだまだ残っている。
この霧は婆さんの魔法で発生させているようなので俺がここから別の場所へと移動したら、その場に有る魔力を吸って霧が晴れてしまうだろう。
そうなると婆さんがまた「結界」を張るのに苦労しそうだ。なるべくならこれ以上は俺も不用意に大きく移動したくは無い。




