118 不信感と誠意
俺の言葉を待っていたかのようにドアから入ってくる人物。
「協力、感謝します。久しぶりと言えばいいかな?」
その人物は見覚えがあった。日替わり食堂で。
「改めて初めまして。ガインと言います。宜しく。」
俺はそれを無視する。だって腹に何か隠しているような第一印象が抜けなくて警戒しているから。
「うーん、何か私、お気に召さない事をしていましたか?」
ガインがそれに続けて放ったその言葉がチクリと心に刺さる。まるでこれでは俺が拗ねた子供みたいに見えてしまう。
「宜しくお願いします。」
先の態度を無かったかの如くの笑顔で挨拶を返す。前世での営業スマイルをここで突然かましてやった。
それにガインが逆に警戒をして顔を若干曇らせた。
ここまで来ても名を名乗らない俺に、眼鏡メイドのハンナも、ガインも不信感を隠さず視線を向けてくる。
レイカーナだけがその事を気にしていない。いや、それを腹に抱えて表に出さないだけかもしれない。腹芸と言うやつかも。
そこにレイカーナが俺を真っ正面から見つめながら言ってくる。
「私たちが貴方を監視していた事はお話ししました。そこに、申し訳ない、と思う気持ちはありません。誤解の無いように言います。私は国の安全保障のため、あらゆる手段を持って対応する覚悟があります。その一環に貴方への協力要請をしました。ですがそこに権力で無理矢理言う事を聞かせる気は毛頭ありませんでした。例えここまで来て断られていても約束は守るつもりでした。」
結局は断り切る、その勇気が無かった俺の責任だ。どこまでも「厄介事」「面倒事」に巻き込まれたくないと思っていても、受けてしまったからには最後まで腹をくくらないといけない。
とここでガインが質問を投げかけてきた。
「安全保障と出てきたので聞きたいのだが、君がどのようにして「裏」を壊滅させたのか、説明をしてくれないか?何せその情報を受けてすぐさま帝国に走ったので詳しい経緯までは調べれていない所だったんだ。直接の当事者から話を聞かせてもらえると助かるんだけれど。」
「・・・話した所で参考になるとは思えないし、ましてや信じてもらえないだろうから、気が進まない。」
不信感が募るばかりか、信用もガタ落ちする事が請け合いな、法螺話にしか聞こえないだろう話をどうして今ここでできようか?
(俺だってもしこんな話されても信じたりはできねえよ。こんな事は直接本当にその時に自分の目で見た者にしか理解できないだろうよ)
この世界のどこに五十人ものゴロツキ護衛共を刹那にブチ殺せる人間が居るのか?
少しずつ考えてきたが、俺は「化け物」だろう。これに尽きる。常識外れとか、普通じゃないとか、そんな生易しい言葉では言い表せる代物ではない。それを理解できていない訳じゃない。
だがそれでも、とレイカーナが改めて頼んでくる。
「例えどのような事でも否定したり揶揄するような真似は致しません。お聞かせ願えますでしょうか。」
先程からハンナもガインも俺に向けてくる意識は敵意に近い。それを隠す気も無く視線と共に向けてくる。例え皇女が「良い」と直に言葉にしていても俺の無礼な態度は許容できないのだろう。それは皇族に仕える者なら仕方が無いものだ。
しかし彼らが「何」を持ってその人物を尊ぶのか?それを解っているかは、はなはだ疑問な所だ。只々、地位が、名誉が、権力が、とかクダラナイモノに仕えているのであれば、そいつが一番空虚だ。
だが一人何処までも真摯にひたむきにこちらに対する態度を変えないその皇女の姿に、高貴さと本気が伝わってくる。
(はー、笑われてもまあいいか。どうせ信じてもらえないのが大前提な事だしな。)
溜息一つ。こうして俺は気が進まなくともポツポツと喋り出し始めた。
アリルの初商売に絡んできたエルトスの所から、商業都市を出るに至るまでを。




