1178 不安材料
さて、俺はそのまま薄らボンヤリと残っている記憶を頼りに婆さんと分かれたあの場所へと向かう。
「とりあえずは問題は解決したし、大丈夫だろ。説明すりゃ納得してくれるだろうし、湖の周囲を調べて貰えばリザードマンたちが居なくなった事は分かるはずだ。」
そう思っていた俺は甘かった。見覚えのある場所に着いた、湖が目の前だ、そんな風に思ったら、そこには婆さん、ユレール、そして男衆が武器を持って集合していたのだ。
「何だよこのやる気満々共は・・・一体何する気だ?」
俺はその集団の前に出ていった。すると。
「お前さん、生きて戻って来たのかい・・・で、首尾は・・・どうだったんだい?」
「それよりもコレはどう言う事なのかの説明をしてくれると嬉しいんだけどね?」
俺は婆さんの質問にそう切り返した。しかしそこにやはり割り込むのは。
「長!こいつはきっと裏で何か企んでいるんだ!今すぐに殺した方が良い!ここでこいつを始末してさっさと奴らを皆殺しにしなきゃ私たちの安全は守れないよ!」
ユレールだ。しかも奴らを皆殺しときたものだ。それはリザードマンたちの事を指すのだろう。
ドンドンと俺の心が冷えて行く。このユレールの過激を通り越した行き過ぎ発言を聞くと、どうにも俺は冷静になって行く。
いや、俺は過激だと感じるけれども、逆にユレールにはコレが「当たり前」なのかもしれない。
(果たしてリザードマンたちの問題が解決したからもう湖に近づかないだろう、と言って信じてくれるか?もう住処に戻ったから今後は滅多な事ではこうして交わる事は無いと、説明して信じてくれるか?)
ユレールが喚いているのに婆さんが諌めたりしない。諦めたとか何とか言っていたような気がするので婆さんはユレールの事をもう気にしないつもりなのかもしれない。
ここでお互いに黙って居ても仕方が無いので俺の方から話をして見る事にした。と言っても話し合いをするような態勢では無い。俺がじゃない、相手側が、だ。
最初に俺がこの湖に現れた時の様に、周囲を男衆が囲ってきているのだ。俺へと武器の先を向けて。
「先ず初めに言っておく。問題は解決した。もうリザードマンたちは去ったよ。」
「そんな事は私たちが決める!お前が嘘を言っているかもしれない。それにあいつらが居ると分かったんだ。殲滅しなくちゃ安心できない!」
俺は婆さんに向けて言ったのだが、代わりに返してきたのはユレールだった。コレに婆さんは一言も発しない。
そもそもリザードマンたちが住んでいるのはここから大分離れた場所だ。今までずっとかかわる事が無かったはずだし、それなら元の場所に戻れたなら今後、リザードマンたちは湖にかかわる事はあり得ない。緊急時を除き、だ。
確かにその緊急、なんて言う突発的な事に対しての備えは必要である。しかしだ。ユレールのこの反応は流石に過剰だ。
やらなくとも良い事を無理に押し通そうとしている。そんな印象を受ける。過剰に怯え過ぎているとも捉えられる。
「何でそんなにぎゃあぎゃあと喚くんだ?落ち着いて発言できないのかお前?」
ふとそんな言葉を俺は漏らしてしまった。あんまりにもこのユレールの落ち着きの無い状態に思わずそんな言葉を口走ってしまったのだ。




