1172 取引しよう
そもそも、ここにこうして陣取ってジッとしていると言う事はだ、ここは魔力だまりだと言う事で合っているだろう。
「ここの地下に魔力が相当量溜まっている。ここで我は魔力を吸い上げて吸収しているのだ。しかしここに住んでいた者たちが戻ってきた場合に「変化」が起きうる可能性がある。」
「この陥没を作ったのはリザードマンたちを脅して散らすためにしたんだろ?変化とか言うけどコレは大丈夫なのか?」
「その点は考えてやってある。変化とはな、小さき者たちに魔力が流れて行ってしまう事を懸念したのだ。我がこの場所を見つけた時には丁度いい塩梅だったのでな。機を逃せばまた放浪せねばならなくなったはずだ。確かにこの地下にこれほどの魔力だまりができたのはここに住んでいた者たちによる「偶然」と言った奇跡だろう。ここを見つける前の我は百五十年程を彷徨っていたからな。ここから魔力をしっかりと得なければまた次に見つけられるのはいつになるか知れんのでな。」
ふう、っと溜息でもつくように「白龍」は説明をしてきた。どうやら長い年月世界中を放浪していた疲れでも出ているのだろう。
理由があってここを離れる気は無いし、事情があってリザードマンたちを戻す事はさせられないと。
で、リザードマンたちに魔力が流れて行ってしまう、と言うのはどうやら彼らも魔力を微かにでも吸収する体質とでも言いたいのだろう。
ここで魔力をしっかりと稼いでおきたいこの「白龍」にとっては問題である。リザードマンが吸収できる魔力が微かなモノであったとしても、かなりの数がいるのだから「塵も積もれば」と言った所か。それがずっと続けば「白龍」の得る事のできる量もその分減ってしまう。魔力だまりは直ぐに枯渇するだろう。
「じゃあさ、代替えできる物が有ればここを退いて別の所に行ってくれるって事で良いのか?」
「・・・貴様は何を言っている?まあ確かにここで得られる以上の魔力を直ぐにでも得られると言うのであれば退いてもいいだろう。で、その様な事を口にしたと言うのであれば、それをお前が用意すると言うのだな?」
「じゃあここで約束してくれ。俺がそれを提供する。満足してもしなくても、ここを退いてくれ。俺の手持ちをあるだけ出そう。それでいいか?」
「何を出すつもりかは知らんが、それ相応の物で無ければ約束は反故にするぞ?この魔力だまりに近い量の魔力を得られなかった場合も、だ。それだけの物を持っているんだろうな?」
俺はちょっとだけここで悩む。持っている「竜の肉」で足りるかどうかが分からないからだ。でも言ってしまった手前、引く事も憚られる。
「じゃあ試しに一つ出すから、それをいくつ提供すれば足りるかを言ってくれ。手持ちで足りなきゃそこら辺の魔獣でも狩ってくるから。」
俺はそう言って魔法カバンからイカを一つ取り出す。すると「白龍」が首をグイっと持ち上げてまじまじとこちらを見つめてきた。
「貴様、何故そのようなモノを持っている?それは我と同種の肉では無いか。」
一目だけでそれが何なのか「白龍」は見抜いてきた。




