1161 そりゃそうだ、違うんだもの
そして歩く速度は一定に森の中を進み続けつつもセッドが説明を始める。
『我々の住む場所にある日突然化物が現れた。そいつは一目で解る強力な力を持っており、すぐに住処を放棄する事に決定したんだ。すぐに逃げ出した我々には行く当ては無い。ずっと安全だと思われる方へとずっと進み逃げるしか無かった。大人数の移動で食の確保も難しく、落ち着ける場所もなかなか見つける事ができなかった。そうしてやっと休息を入れようかと言った所で湖を発見したが、すぐに我々に迫ってきた輩が居てすぐに撤退した、と言う訳だ。』
こうしてもう一度湖に近づいたのはもう一度ハッキリと偵察をする為だったと言う。
まあ直ぐにこうして発見されたと。これには婆さんの「結界」とやらが大幅に作用しているのが原因とみられる。
「で、そんな時に俺がこうして近づいてきて混乱したと。まあそれが普通だよな。・・・俺がおかしいだけだな、うん。」
この世界にこうして俺が転生する前の事を考える。突然見も知らぬ男にいきなり声を掛けられて「困っていたら助けるよ」と言われて警戒をしない訳が無い。
それがこうして異世界で、しかも種族も全く違う存在からそんな声を掛けられて困惑しない訳が無かった。
スペイン人とか、アメリカ人とか、中国人とか、アフリカ人とか、そんな違いでは無い。人種が違うとか言うレベルでは無いのだ。存在としての在り方自体がそもそも根底から違う。
彼らは蜥蜴人、俺はかろうじて人種である。見た目も、それこそ生活様式も、そもそもその身体的構造も恐らくは大きく違う事だろう。
そんな相手にいきなり「親切」を押し付けられたって信じられないし、そもそも「ケッコウデス」と即、断る案件だ。寧ろ「え?何でお前が首突っ込んでくるのいきなり!?」である。訳が分からないと言うモノだ。
コレで「ハイ、助けてください」と求められるような物であったなら、そいつは相当なデッカイ器の持ち主であろう。
「あ、そうそう、これ、どうする?煮る?焼く?それとも生?蒸す?あ、蒸すのはちょっと難しいか。道具、ねえな。うーん?蒸したのを一回食べてみたいけど、まあコレは止めておくか。」
俺が調理法を問うとキョトンとした顔をこちらに向けられた。
『ソレは一体なんだ?煮る?焼く?蒸す?そのままで私は食べたが、それ以外に別に何かあるのか?』
調理と言うモノを知らないらしい。これには俺が驚いた。蒸すのを知らないのはまだ分かる。けれども煮るのや焼くまで知らないのはどう言う事か?
でもちょっと考えればわかる事だ。先程も考えていた様に、彼らはそもそも俺とは全く違う種であるのだ。野性で生きてきた者たちなのでは?火を使う事無く生きてきた者たちなのでは?そうであればコレは仕方が無い事である。
さて、ここで俺はもう一歩踏み込んで考えた。
(これ、火を使った調理法とか教えて良いモノだろうか?)
彼らに火を使う事を教えて良いモノかどうか迷う。もしくはそんな心配はいらないのかどうか。
そもそも調理、と言った部分にだけ火は使っていないだけで、他の事に関しては火を使っているとか言う事はあるだろうか?篝火と言った照明用に夜は火を焚いている?
うーん?と首をかしげてここで考えても答えが出せなかったので、この事は後回しにする。
セッドとラールはその俺の様子を奇妙な者でも見るかのような視線を送りつつも、この話をこれ以上は振ってこなかった。




