1155 参ったと言って欲しかったけれど
取り合えず心行くまで水ゴーレムの感触を楽しんだ。後は今居る湖の上からまた陸地に上がって婆さんの正面に立ってから加速を解除する。すると俺が歩いた水面部分はバッシャーンと弾けた。
するとどうだろうか。婆さんはそもそも俺へとこの水ゴーレムをけしかけようとしていたのだ。しかも婆さんの様子だと速攻を仕掛けようとしていたッポイ。
でも、どうにも婆さんは首をかしげる。ゴーレムに反応が無いから。俺が加速を解除した時に上がった水飛沫はどうやら婆さんにはこのゴーレムが動いた事で起きたと言った勘違いをしたらしい。
しかしそれ以上の動く気配が無い事でより一層に婆さんの眉間に皺が寄る。おかしい、と。
それもそうだろう。今のゴーレムは人の形が崩れているのだ。グネグネ、ぐにょぐにょ、そんな擬音がぴったりな動きをしている。
その内に形は水球となり、ブルブルと震え出した。そんな時に婆さんはやっと後ろを振り返ってゴーレムの様子を今更確認した。
「な!何だいコリャあ!?私のゴーレムがどうなってんだい!コレ!命令通りに動くんだよ!」
婆さんは叫ぶが、水球の震えは止まらない。そればかりか何故か膨らんでくる。
ソレは風船の様だった。どんどんと膨らんで、そして、はじけた。
ばあん、そんなスゴイ重音をさせて周囲に水を吹き飛ばして水ゴーレムは跡形も無く消し飛んだ。
その時の水が婆さんにぶつかり、船の上で転んでいる。
「大丈夫か婆さん。・・・まさか、当たり所が悪くて死んじゃいないよな?」
そんな事になると俺は後悔を抱える事になる。前々からつまらない事で後悔を背負いたくないと思っていた俺だが、ここにきてとうとうか?と焦ってしまう。
「・・・あ、あ、あ、あんた、何をしたんだい?私の魔法を、しかも一番頑丈なヤツを初手で投入したのに。この結果は一体全体何だってのさ?」
婆さんはどうやら無事だったようだ。しかもどうやら濡れてもいない。水の衝撃で倒れただけと言った感じだ。
どうやら着ているローブが水の衝撃をある程度弾いたらしい。婆さんは何処も痛めた様子も無く立ち上がった。
「良かった。死んで無いか。あ、いや、婆さん怪我の方も無いか?どっか痛む所は?」
見た様子だけでは何処も怪我をしていないとの判断はまだ早い。だけど婆さんは俺へと静かに質問をしてくる。それ所じゃ無いと。
「あんた、もう一度聞くよ?あれがあんな風になる何て、一体何をしてくれたんだい?」
「何をしたと言われてもなぁ?只ペチペチとその表面を満遍なく叩いただけだが?変な感触だったなぁ。」
嘘は言っていない。どうせ真実を語った所で信じちゃ貰えないだろうし。そんなつもりで俺はそう答えるのだが。
「嘘を吐くんじゃないよ。その程度で私のゴーレムがあんなになるはず無いじゃないか。そもそも、あんたはそこから動いていなかったじゃないか。教える気は無いって言う事かい?」
どっちにしろ信じては貰えない結末になるのは予想していた。なので婆さんのこの追及に切り返した。
「正直に話してるんだけどな。信じちゃ貰えないのならそれはそれで構わないよ。結局今俺たちは争ってる訳だし。婆さんが「参った」って言って引き下がってくれるまでお付き合いするよ。」
この俺の返答に婆さんが馬鹿にされていると思ったのか、プライドがそうさせるのか、また短杖をこちらに向けて魔法を使う様子を見せる。
「ふざけるんじゃあないよ。引き下がれないと言ったじゃないか。我が魔力にて敵を打つ礫と成れ。」
そう婆さんが唱えると湖から水の玉がぷかぷか空中に浮き上がる。ザっと見ても大きさは手の平を大きく広げた位と言った所だ。
しかもその数がヤバイ。百以上はあるだろう。それを婆さんは俺にぶつけようと言う事らしい。
これだけの水弾が容赦無くぶつかってきたら身体中びしょ濡れ、というだけでは無い。その飛んでくる速度にもよるだろうが、当たった衝撃がヤバいだろう。それが百回以上命中したら?
恐らくはその威力によっては身体を鍛えた男であっても意識朦朧にさせられるだろう。当たり所が悪ければ脳震盪、気絶させられてしまう可能性もある。
凶悪だ。たかが水、されど水である。これほどまでの量の水をいっぺんにぶつけられれば人一人殺す事も可能だろう。
それとこれらは婆さんの魔力が込められた水であり、自由自在に操る事が可能だ。ならばその水で口鼻を塞がれて窒息させると言った使い道も。
(ああ、なるほど。キッチリ俺を殺すつもりになったのか。避ける暇など与えない、って考えがこの数でありありと感じ取れるわ)
婆さんは本気を出したのだ。




