1150 種が違えども
何と言ったら良いか?多分この様子だと俺の言葉は通じていたとみてもいいのだろう。
じゃ無ければ戸惑いなど見せるはずが無い。だって相手は婆さんの言う「話の通じない」相手だから。
でも、俺のこのかけた言葉が相手に理解されているというのは「経験」がある。そう、魔獣に対しても、バハムに対しても、魔族に対しても、獣人族たちにもあった事だ。
「先ず、俺は武器を持っていない。あ、俺ヒノモトで着てた服のまんまだわ。まあ、いいや。あんたらに俺は暴力を振るわない事を誓うよ。話合い、できないか?」
ますます俺のこの言葉に困惑を隠せないで二人?二匹?はお互いの顔を見合う。
相手からの返事が返ってこないと俺もこれ以上は何と言って良いモノか、黙るしかない。
で、やはり俺の「言葉」は通じていて片方のリザードマンが口を開いた。
『お前らは俺たちがここに前に来た時に襲ってきた。こちらが何もしていないのに。だから、信用はできない。』
そう言って手槍をこちらに向けて突き出してくる。でもそれは威嚇のためにしているもので、全然俺には届いていない。
「そうか、それは仕方が無い。でも一つ言わせてくれ。俺の後ろにはあんたらを殺そうとしている奴がいてな。俺はそれを止めるためにここにきている。お前らはできる事ならここからすぐに立ち去った方が良い。」
コレに随分と驚かれた。何でそんな事をしに来たのか?と。それは殺しに来たという事では無く、そんな事実を俺が何故このリザードマンに伝えに来たのかという点で、だ。
不自然だと思われているのだろう。罠か何かか?と。
『お前は何故そんな事を伝えに来た?馬鹿なのか?俺たちを殺そうとしている奴とお前は違うとでも?』
「そうだなぁ。同じと言えば同じなんだけど、違うと言うと違うんだよ。俺も説明しにくいんだけどさ、あんたら、困ってここにやってきた、って事で良いのか?事情があるなら説明をしてくれたら俺がそれを手伝えるよ。」
そもそも、異業種、だとか、亜人、だとか言ったカテゴリーに俺は拒絶勘は無い。
お互いに根底から相容れ無い様な相手であればこの様な話し合いは持ち出さない。極端な例で言えば相手が人食いで、放置しておくと危険とか。
だけど、この感じだとこのリザードマンたちには何か理由があってこの湖に辿り着いた感がある。
こうして通じ合える同士ならば話位は聞いてやれるし、その問題に手を貸せそうならば俺が手伝う事もできるだろう。
憎むべきは「話の通じない」輩である。このリザードマンは俺と会話ができている。ならばここはちゃんと対応を間違えないようにしなければいけない。
なにせ婆さんが後ろに控えている。俺の事はどうやら「気になって」いる様なので、このままここでリザードマンと一緒に居れば魔法を放ってくる事は無いだろうと思える。
でも、気が変わって俺ともども始末してしまおうとしてきたらどうだろうか?所詮は俺はこの湖に迷い込んだまだ「信用ならない」存在だと思われているはずだ。
黒き者の伝承だか何だかを研究した事があるとか言っていたが、その内容を俺は全て知っている訳では無い。
その中に「やらかしエピソード」なんか入っていて、婆さんがそれを基準に俺を見限るかもしれない可能性はある。
『何故お前に話さないければいけない?お前は敵だろう?・・・何なんだ一体?』
「殺し合いはしたくないんだよ。なんかもう今まで俺の人生殺伐とし過ぎ、いや、俺が我慢ならずに俺基準で判断した悪人を今までぶっ飛ばして来ただけか。うーん、もうそれ無理だよな?あ、違う、違う。俺の事じゃ無くて、今はあんたらの問題解決をだな?」
自分のお悩みを相手に話す場面じゃない。思わず俺は自身を振り返ってぼやいてしまったが。
『お前は訳が分からない。一体何を言いたい?何をしたいんだ?』
リザードマンたちの警戒心はまだ解かれていない。それもそうだろう。何もしていない彼らを前回にユレールが追い返したと言っていたんだ。
俺はそんなユレールたちと同じなのだろう、リザードマンたちから見たら。
俺だってこのリザードマンたちの見分けが付かない。仕方が無い、お互い様だ。
でも、これだけは言える。言葉が通じるなら、こうして心の作用の仕方も似ているのなら、歩み寄れるし、助け合いもできるはず。
「共存したい、のかな?最低でも不干渉って言う形に持って行く事も可能だと思ってる。住む場所が同じで、種が違っても。ほら、お互いにちゃんと思い合える心はあるだろう?言葉が通じなくてもそう言った所は通じ合えると思うんだけどなぁ?食糧問題さえ解決すれば別に問題無さそうじゃないか?」
この湖は大きいのでここの「住人」がある程度増えても食糧問題でぶつかり合う、奪い合い何て事は起きそうも無いと思えたのだが。
『・・・変な奴だ、変過ぎる。どんな思考をしているんだ?わからない、解らない・・・』
この俺の言葉はより一層リザードマンたちを困惑させてしまったようである。




