1149 霧が晴れていくけど、見えた者は
既にこの湖の周囲には婆さんが結界を張っていると言う事なので、こうしてその近くに来ればそれを通して侵入者が判るのだろう。
遠くにいるとそもそも魔力なんかを流すのに苦労するのかもしれない。そうで無ければ哨戒していた者よりも早く婆さんが侵入者に気付いたはずだからだ。
そうして黙って警戒だけをし続けていると、森のうっすらと霧の張っている所に人影が見えた。
しかしまだ婆さんは魔法を使うと言った気配は見えない。居場所も多分正確な所を把握しているハズであるのに。
取り合えずはソレは俺が行動をするのに取って都合が良かった。
婆さんの目の前に出てそのまま人影の方へと俺は歩き近づく。
「お前さん!なんて事をしてるんだい!そっちへ行くんじゃないよ!私の魔法が撃てないじゃないか!確実に姿が見えた時点でやろうと思っていたのに、これじゃあ、あんたも巻き込むよ!?」
どうやら目視をして位置をしっかりと確認してから魔法を放とうとしていたらしい。
「婆さんは待機で。話をしてくる。こんな所にまで来るんだ。何か事情があるんだろ。そんな追い詰められてる奴らに追撃するような真似はちょっとなあ?」
「馬鹿を言うんでないよお前さんは。会話なんてできるはずが無いだろうに。」
この行動に呆れたと言った感じで婆さんが俺を見送る。
確かに俺はそもそもこんな人間性を最初から持っている訳では無かった。だけどユレールのあの暴走している様を見て、何故か今は俺の方が冷めた心にさせられていている状態だ。
即座にぶん殴って解決する問題であればその時には素直に俺も手を出す覚悟はある。
だけど冷静に見て、話し合いで解決できれば越した事は無いし、親身になって話を聞いてやるくらいはしてやってもいいだろう。
ここに来た奴らがこの湖に居る奴らを追ってきた者たちと言う訳で無ければ。
(会話なんて出来るはずが無いだろうに?って、なんか不自然じゃないか?まあいいか)
ここでも婆さんとの会話の違和感が頭をもたげるが、もう目の前にそいつらは居る。二人だ。
ツーマンセルでの行動でこの湖の様子を偵察にでも来たのだろうが。
「あ、あー。そうなるわな。婆さんが言った事がようやくここにきて分かったわ。ああ、これね。」
人影は少しづつくっきりとその姿をあらわにしていった。最初は「随分と猫背?」などと思ったのだが、そこから間もなくしてその異様な影の輪郭がはっきりとしていった。
「頭部から背中にかけてトゲトゲ?・・・うわぁ・・・なんだソレ?」
その後に直ぐに視界にキッチリとその姿が見えたのだが。何と言ったらいいか。
イグアナをそのまま「人」にしたような存在だった。言うなれば多分これは。
「リザードマン、って、言っていいのかね?お二人さん、俺の言葉、分かる?」
向こうからも近づいて来る俺の事は分かっていた様で、その手に手作りの手槍を持っていた。それをこちらに向けてきている。
しかしいきなり俺に襲い掛かってくると言った事はせず、しかしどうやら俺の掛けた言葉に只々困惑を示している様に見えた。




