1145 問題がやってくる
今度は俺の身の上話をするターンだ。婆さんは自分の境遇を話した。ならば俺も語るべきだろう。
まあ「力」の事は話さなくていい。寧ろ話した所で信じてもらえないと言った点もある。
でも、この婆さんは何だかんだ言って博識みたいだから、俺の「力」の事を説明すれば何かしらの情報は得られるかもしれない。
けれど、それはもう余計な事だ。もしも有益な情報が得られたとしても、それはきっと「手が出せない」と言った類の話になるだろうから。
だって今までも「黒き者」などと言った話をいくらか聞いたりもしたが、その中に俺のこの「力」を何とかできるだろう情報は無かったから。
結局俺はこの「力」にこの先も振り回されてあちこちに行かされるのだろう。その場その場でのトラブルの解決を押し付けられるのだ。
「あー、それじゃあ俺の事も話そうか。そうだなぁ。俺はさ、村を成人してすぐ出てきてね。色んな所を渡り歩いててさ。」
大幅に今までの出来事をバッサリと切って捨てた説明にはなるが、一応はヒノモトでの出来事を話しておく。
「ヒノモトに観光に行って、そこでちょっと大きな問題に巻き込まれてさ。その時にえー?なんて言えばいいの?大きなものを封印していた触媒?ソレが誤作動を起こしてそれに俺が飛ばされて。」
説明が難しい。何せ邪龍の事を話しても良いのかどうかが分からないからだ。
なのでしどろもどろで、あんまり解りやすい説明にできない。
だけど婆さんはコレに別に「分かり辛い」とは突っ込んではこなかった。寧ろ黙ってちゃんと俺のチグハグになりそうな語りを聞いてくれる。
「大体の事は分かったよ。それに嘘が無い事も。それと、話していない事が大いにあると言った所もね。でもまあ、今はソレだけで充分だろうさ。あんたが私への追手じゃ無いとコレでハッキリと分かったからね。」
どうやら俺が何を言いたいのかをくみ取ってくれたみたいだ。でも追手だ何だと物騒な事を付け加えてくる。
俺はそれに流石にもう大丈夫じゃ無いのか?と問いかける。
「・・・なあ?八十年も経ったんだろ?もう今更婆さんを狙ってくるような奴らはいないんじゃないか?国に追われたんだっけ?もう王様もその当時から代わって婆さんの問題もうやむやになったんじゃないのか?」
「甘いねぇ。そう言って油断してたら私はここに居ないって事さ。ここにこれだけの人間も集まらなかったはずさ。ここに私が居るからこそ、ここにこいつらが生きていけてるんだよ。まだまだ生きるつもりでいるからねぇ。」
そう婆さんは言ってから護衛の男に向かって「もう暫くは安心さ」と言葉を掛けた。
婆さんは水の魔法を極めたと言っていたので、この湖のど真ん中に建つ家らは婆さんの魔法によって安定しているのかもしれない。
こうして俺と婆さんは互いへの警戒心を解き合った所で扉が勢いよく開かれた。そこにはユレールが立っていて。
「あいつらがきやがった!婆さん早く戦闘態勢だ!数は少ないみたいで斥候のようだけど、伏兵もいるかもしれない!今度こそあいつらぶっ殺してこの湖に近づく気を根こそぎ奪ってやらなきゃ!」
「馬鹿者!お前がそうやって前回に早まった行動を起こしたを忘れたのか!私の許可無く戦闘はするなと言ってあっただろ。騒いだりするんじゃない!お前は一体何様だい?偉そうな口を叩くんじゃないよ小娘が!」
いきなり婆さんが怒鳴るのでビビる俺。しかし怒鳴られたユレールはしれっとしている。
「だから今度はこうして長に連絡しに来たんじゃないか。早い所、長の魔法であいつら全滅させてくれよ!」
どうやら俺の今回のやらされる問題事とはコレであるようだ。




