1143 目の前に広がる果てしなさ
どんな方法で結界を張っているのかは分からないが、それを抜けてきてしまったからにはもう遅い。
ここがどんな人々が集まってできた集落なのかは分かったが、ここが「何処」なのかがまだまだ分からない。
国に追われて逃げてきたと言うが、何処の国からで、それが世界のどこら辺に有るかが分からない。そしてその位置関係も。
「さて、そんな魂が見れる私にも何故かあんたのソレが見えないんだよ。不思議だねぇ。今まであんたの様な者を一人だって見た事がなかった。アタシよりも高位の魔法が使えて、それで隠蔽している、と言う事なのかい?」
俺が実際は魔力持ちで、しかもその魔力を隠蔽しているのでは?と婆さんは推測しているみたいだが、大外れだ。
「俺はそもそも魔法は使えないよ。魔力が一切無い。神様の加護なんて貰ってないからね。」
「!?・・・おやまあ思い出したよ。あんた「マナ」なのかい。そりゃあ随分と今まで大変な目に遭ってきたんだろうねぇ。」
同情された。これは初めてな事である。逆に俺が驚いた。どうやら婆さんは「マナ」と言った存在がどの様な扱いを受ける存在なのかといった事を知っていたようだ。
「そうなるとねぇ、あんた、転移でこの森に来ちまったんだろう?そう言えばヒノモトから来たって言ってたねぇ?あんたそこの出身なのかい?それこそ魔力を持たないのに転移とはねぇ?」
確かに俺に作用する魔法と、そうで無い魔法が有るのと、そこら辺の検証は必要だと思った。
なにせ俺は今この湖の周囲に張っていた結界を無視してここに来てしまっている。
ソレは効果が俺には発揮されていなかったと言う事。では転移は何故俺をこんな場所に飛ばせたのか?だ。
随分とこの婆さんは知識が豊富であるようだ。魔法を極めたと言っていたくらいだから、転移と言った特殊な魔法の事も知識として知っているのだろうとは思う。
ヒノモトの事も「それは何処だ?」と聞いて来ない所を見ると、どうやらそれも知っているらしい。
「なんだかなあ?話が早いのは良いけど、何を話せばいいか迷うな?婆さんは何処まで知ってるんだ?」
「さて、何から説明したらあんたのその混乱を治めてやれるかねぇ?じゃあここの場所から説明してやろうか。・・・さ、これを見な。」
席を立ち、近くの棚から丸められた用紙を手に取る。テーブルの上にソレを持ってきて広げた婆さん。コレには怪訝な顔をして護衛の男は俺を睨むのだが、口を出してこない。婆さんの判断を間違っていると思っていても、それを止めないのは婆さんが湖に住む者たちの中で一番の権力者だからだろう。
ユレールなら絶対に一々噛みついて来ていた事だろう。教える必要は無い、と。
「ほれ、ここがヒノモトさ。そしてこちらの大陸がレブン大陸。そしてこちらがザルド大陸さ。」
俺はここにきて初めてこの世界の全貌を目にした気分だ。地図なんて初めてお目にかかった。しかも世界地図。
その地図は縦横それぞれ40cmの四角の紙だった。古い物であるようで茶色く変色していてボロボロだ。
ソレは恐らくだが正確な尺図と言った物では無いにしろ、世界をその小さい面積に収めた代物には違いない。
その地図には下の真ん中にヒノモトが、左上にレブンで、右上にザルドであった。
その大陸それぞれがどれくらいの大きさなのか、確かな事は分からない。けれどもかなり大きい大陸だと言うのは直ぐに解る。そして。
「地球の世界地図を奇妙な形に圧縮した様な?何だ?何なんだ、コレ?」
俺の脳内で思い出せるだけ思い出してこの地図を見るが、変な所が一致していた。この世界の全体図は。でも、そんな部分に疑問を抱えても別に俺はこの世界の謎を解き明かすと言った気が全く無いので無視する事にする。
「ほら、私たちが居るのはザルドさね。ちょっとは自分の居場所が判ってホッとしたかい?」
ちょっとだけ揶揄うニュアンスが婆さんの言葉に感じられたが、俺は別の事に頭が行っていてそれどころじゃ無かった。
「俺、そもそもどっちの大陸出身なのかも知らねえゃぁ~。」




