1142 天才の事情と出来心
さて、どうしたものかと俺は頭を悩ませる。どうやらこの森から街道に出れると言った様子らしいからだ。
街に行くなら案内を付けると言って貰えている。なのでこの湖が森の奥地に有るのだろうという予想はあるとしても、ちゃんと森を抜けるルートも有ると言う事になるからだ。
「さて、何から説明しようかねぇ。私はもうあんたの事は別段疑ってはいないんだよ。最初に説明された通りの事情って事をね。だから後はあんたが口の堅い人物かどうか、だね。どうやらここに住む、と言った選択肢をあんたは選ぶようには思えないんだ。何故だかね。」
婆さんは俺をそういった感じで捉えているようだ。当たらずも遠からずである。
俺はこう考えている。ここに住もうとするとまた「飛ばされるんじゃないかな?」と。只の勘だ。けれども何故か確信に近い勘だ。
そしてここから出ていこうとしても「止められる」と感じている。いつものヤツだ。
多分俺がこんな場所に転移してきたのも何かしらの問題があるためだ、きっと。
思い返せば行く先々で物語の主人公か!と言いたくなるくらいに厄介で面倒な事にばかり関わらせられてきた。
もう俺は疑わない。俺はこういった事の「解決」をさせられている。この「力」で。
転移先がこんな所で、そして隠れ里などと言う場所に着いた時点でもう確定だ。
そしてその問題とやらを熟し終えたら次に行かされる「理由」がきっと俺へと押し付けられるのだろう。
それがどんな物になるかはその時にならないと分からないだろうが。
「さて、どうして私がそんな風に思うのか、その説明をした方が良さそうだね。どうやら納得をしていないみたいだからね。」
婆さんが言っているのは護衛の男の方の事である。俺は別に婆さんの言葉を疑っていたりはしない。
そしてどうやら俺へも婆さんの身の上話を聞かせるために話をするみたいだ。
「私の「魂」を見る目はね、その相手の魔力の色と流れを見る物なんだよ。もう八十年も前になるかねぇ。完成させたのは。私が十八の頃だったか。」
「婆さん滅茶苦茶天才じゃねーか。」
俺はツッコんだ。魔法を極めた、と言った。そしてそこからこの魂を見る魔法を編み出したと言っていたのだ。じゃあ極めたというのは十八より前の年齢だと言う事。
「そうさね、私は天才だったよ。親は父親が魔法使いでね。四つの頃には習っていたさ。習得も早いと言われてね。良くそれで褒められていたモノさ。そうやって毎日魔法漬けで連日連夜、魔法収得に研究と、あの頃は楽しかったよ。でも私が十六で水魔法を極めた時に父が亡くなった。突然死だった。頭の中に血の塊ができてそれが詰まっちまった。死因も私の魔法で調べたのさ。そのころには水ってだけじゃ無くて「流動」の研究もしていたからね。」
何だか訳が分からない事になっている。水の魔法の研究から何故「流動」になるのか?でもそこら辺はツッコむと魔法講義に話が大いに脱線しそうなので口には出さない。
まあ確かにボンヤリと「分からないでも無い」くらいには理解はできる。
そしてまだまだ婆さんの話は続く。でも護衛の男はここで口を挟んでこれを止めようとはしてこない。
ここに居たのがユレールならきっと止めに入っていたのではないだろうか?彼女は何処か過敏になっていた節がある。この話も俺へと教えなくてもいい情報だと言って止めに入っていた事だろう。
「そして独自の研究をしてね。とうとう人に流れる、人の身体の奥底にある魔力を「色」と「流れ」をこの目で見れるようになった。それの検証をする為に様々な何千もの人を観察するようになったのさ。」
街に住んでいれば道に出るだけでそこを通る人は一日で千人は軽く超すだろう。何千なんて控えめに言っているが、婆さんはきっと何万人ものその「魂」とやらを見つめ続けてきているはずだ。
「そうして私は「魂」を見る事ができるようになったのさ。善人は魔力が白くてね、そして輝いていて、その流れも美しくゆっくりとしているのさ。」
どうやら「お決まりのパターン」と言う奴らしい。この世界でもこういった事に対してはテンプレみたいである。
「で、悪人って奴はね。その逆さ。黒い、暗い、ドロドロで淀んでいる。こうして私が人のそういった隠された特徴を判断できるようになった事は「危うい事」だと薄々気付いてたさ。けどね、これを人の役に立てたいと思っちまった。ほんのちょっとした出来心だったね。最初はこの研究は私の中だけにしまっておくつもりでいたんだけどねぇ。」
そしてやはりと言えばいだろうか?このような「おっかない」事ができるというのは良い方向にも、悪い方向にも転がる訳で。
「まあ、詳しくは割愛させてもらうけどね、お国に目を付けられて逃げてきた、って事さ。そしてこうしてこの湖の周りに結界を張ってね。見つからない様にこうして隠れてるって訳さ。そう言えばあんた、結界を良く通り抜けれたねえ。ああ、そう言えばあんた魔力が無いんだったかい?それなら私の結界も意味をなさないねぇ。」
全然俺は気付かないでいたが、どうやら湖に近づけない様に魔法が森にかけられていたそうだ。




