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1135  突然の出来事に

 俺は目を疑った。今先まで、俺の前にはセイメイ様が居たのだ。なのに消えた。

 いや、違った。周囲が、まるきり別の場所だ。邪龍戦のあの場所は荒野だった。

 なのに今俺が居るのはうっそうと太い木々が生い茂る森の中。コレは要するに。


「あの術は転移だったのか・・・そうか、ディレイが掛かってたのか?発動するのに力が足りなくて時間差が起きたのか?って言うか、ここ、何処?」


 途方に暮れるとはこういった事なのだろう。頭の中では理解できても、身体が全く動こうとしてくれない。

 何もかもがいきなり全て変わってしまったのだ。これにはどうする事もできない。

 ここが何処か?村は直ぐ近くに有るか?この森はどっちに行けば抜けれるか?そもそも何で俺がこんな所に飛ばされなければいけなかったのか?


「ああ、なんだ、何時もの事じゃないか。そうだ、いつもいつも俺の身には突拍子も無い事がいつでも起きていたじゃないか。・・・でも、でもなぁ?」


 これほどまでに大きな変動を強いられた事は無い。大体が「流れ」というモノに沿っていた。

 これだけいきなり「断絶」と言える程の事は今までに無い。


「森の中でサバイバル?ああ、獣人の森の時にもこんな感じだったか?」


 だからと言ってここまで無責任に放り出されたわけでは無い、あの時は。ちゃんと覚悟と準備があった、心の中に。

 でもこうして今は転移のショックが大きくてそれどころでは無い。

 邪龍戦の後のヒノモトで、さあこれからちょっとだけ、そう、ちょっとだけ観光しようと思っていたのにこれである。

 アキンドを見て回りたかった、それだけが心残りだ。その心残りも思っていたよりもその規模が大きかった事を今、自覚している。


「こんな所で立ち止まってると何が起きるか分からんなぁ。だからと言って何処に向かえばいいんだ?」


 まさしく指標が無い。今俺は自由である。でも、人とはいきなりそう言った「手に余るほどの大きさの自由」などと言ったモノを与えられても直ぐには動けない物だ。逆に何からして良いのかを決めかねて固まってしまう。

 明確なビジョンがある人ならすぐに行動に移せるのだろうが、俺は今邪龍戦での一仕事を終えた後である。

 ホッと一息つく所でいきなりの森の中で独りボッチなのだ。変化の大きさに思考が纏まらないばかりか、何もする気が起きない。考える事さえしたくない。

 大きな仕事を終わらせた後の休暇、と言ったモノを取りたかった。それはこうなってしまえば叶わない。

 オンミョウか、もしくはモノノフに戻って畳の上でゴロゴロとしたい気分だ。それもできない。


「うおおおおおお・・・何でだ?俺は何か悪い事でもしたのか?普段からの行いが悪いからこうなったとでも言いたいのか?」


 森の中、俺以外に人がいないと分かって俺は嘆いた。盛大に。

 急激な環境変化に精神が一気に不安定になって俺は思い切り地面を拳で叩く。

 ドコン、と地面にめり込む自らの拳を見てちょっとだけ冷静になれた。


「深呼吸だ・・・深呼吸をしろ、俺。そして心を落ち着かせるんだ。・・・あぁ、久々にこんな気持ちになったぜ・・・」


 多分俺は今かなりのストレスで追い詰められている。それを認めるべきだ。

 これを発散するにしても先ずはしっかりと心を落ち着かせなければ手遅れになるだろう。そう、この森が、だ。

 このストレスの八つ当たりをするうえでも、必要以上に自然破壊をする気は無い。精々目の前にある木を一本粉々にするくらいで納めなければならない。

 そうで無いと今の俺はこの森を全て「平たく」しなければ納まりきらない程の、形容しがたい「何か」で一杯だ。

 その「何か」をちゃんと分析しなければいけない。


「セイメイ様への怒りじゃない。迂闊だったとは言ってたけど、こうなるとは予想していなかっただろう。ああ、いきなりあそこから俺が消えたんだからきっと向こうも混乱してるだろうなぁ。そう思えば俺の今の混乱も少しは鎮められる・・・」


 セイメイ様への怒りでは無かった場合何か?理不尽への怒りだろうか?俺のこの「運命」への怒りだろうか?

 先程から怒り、怒りと他の感情も「何か」に混じっているハズなのに冷静にソレを見る事ができない。


 その事に若干俺は呆れた。自分自身の事なのにその感情を上手く説明できないのだから。

 その事で逆に精神は落ち着いた。


「ヨシ、取り合えずは一本やろう。」


 いつまでも不満を解消せずにいるのは心にも身体にも悪い。

 なので俺はこれらを解消するために一本の木に犠牲になって貰う事にした。

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