1132 終わった戦と
それから暫くの間、待ち続けた。五分か、もしくはそれ以上か。ずっと俺は空を眺め続けた。
あの爆発の余波がどのような影響をヒノモトに出したか分からない。なのでどこかに変化が起きていないかを注意深く観察する。
遥か彼方上空でのあんな爆発だ。恐らくだがオンミョウやモノノフでもあの光は観測できたのではないだろうか?
後でそこら辺の騒ぎを抑えるのにセイメイ様もお殿様も大変な苦労をするだろう。
なんて思っていると、その二人が近寄ってきた。
「・・・終わった、のか?終わったんだな?・・・サイトウ、何とか言え。」
「アレだけの力の放出です。邪龍の残りの命はもう無いのでは?自爆と言うのはそう言う事では無いのですか?」
まだジッと空を見上げ続けている俺に二人が詰め寄ってきた。もう終わったんじゃないのかと。
俺もこれ以上首をずっと上に向けているのは辛くなってきた。それに兵も術者にも緊張の糸が切れた様子が見られた。
牙地流だけが何故か「面白く無い」と言った渋面になっているのが問題だ。彼らはきっと「斬り足りない」などと思っているのだろう、どうせ。それ位は邪龍戦でのあの立ち回り様と発言で容易に察しがつく。
「そうみたいですね。じゃあ、戻りましょうか。」
俺はそうしてザワザワとまだしている兵たちの方へと向かう。数歩ほど歩いた際に後方で「ボトリ」と言ったちょっと大きめの音がしたので何かと振り向くと、そこには何故か子ギツネが居た。
しかも何かを食べている様子で、しかしこちらに背を向けていているので何を食べているのかが分からない。
先程まで遠くにいたはずの子ギツネがいきなり俺の背後にいて、そして何かを食べているとか、良く分からない状況に俺は「んん?」と少し混乱したが、何も問題が無さそうなので気にしない事にした。
チラリとあの「目に毒」なカラーをした何かがチラリと見えたのだが、そう、気にしないのだ。
小さく細長いその何かを子ギツネが食い千切って咀嚼しているが、気にしないったら気にしないのだ。
そう、問題は全て解決。終わった。ヒノモトの未来は守られたのだ。
戦闘自体はかなりのあっさりとした感じで終わって「決戦」みたいな仰々しい響きとは離れている印象だったが。
何事も無く終わったこの大団円は喜ばしい事だ。最上級の戦果だと言える。被害ゼロ、奇跡的だ。
狐親子の方にも傷を負うような事も無く済みホッとしている。いや、ホッとするのは早いかもしれない。
なにせ九尾が虹色に輝いているのだから。邪龍の肉を大いに食べてその魔力を自身に吸収した結果だろう。
実際に虹色に輝いているのはその毛なのだが、その様が全身から虹色のオーラでも出しているかのように見えるのだ。
神々し過ぎる。コレに術者たちはまるで神でも崇めるかのように膝を付いて手を合わせているのだからオカシイ光景になってしまった。セイメイ様もこれには頭を悩ましている。
兵の方も地面に正座をして居住まいを正して九尾へと頭を下げているのだからさあ大変だ。
今のこの状況をどう収めろというのだろうか?お殿様もコレに頭が痛くなって来たようで手を額に当てて目を瞑っている。
その九尾の横には黄金の毛、九本の尻尾になった子ギツネがまたしてもいつの間にか「チョコン」と寄り添っているのだからもう手が付けられない。何処からツッコめばいいのだろうか。
コレに関しては俺のせいじゃ無いと思いたい。狐親子が勝手に邪龍の肉を食べたんだから。
まあこの邪龍討滅戦に「力を貸して」と言ったのは俺な訳だから、きっかけは俺にあるとも言えるのだが。
そんな二匹が俺に近づいてきて頭を下げて一礼する。依然として狐親子は無口らしい。
そうしてすぐに振り返ると颯爽と空中を蹴って遠くの山の方まで消えて行ってしまった。
どうやら以前から住んでいた巣へと帰るのだろう。別れはあっさりとしたモノだった。
こうして消えた狐親子の後はお片付けである。落ち着きを見せ始めた兵と術者はこの戦いで使った物資の回収や部隊の損耗などの確認をし始める。
セイメイ様、お殿様の指揮のもと、帰還の準備が進められていく。
そんな中で俺は手持無沙汰だ。その指揮を執る二人から「何もしないで構わない」と言われてしまったからだ。
なので俺はボケっと立ったままでいたのだが、その時に奇妙な物を見つけてしまった。




