1131 自爆
目の前に居たはずの存在が消える。成功はしたようだ。しかしどこまで飛んでいったのかが今重要だ。
真上へと放り投げる、という選択肢ともう一つ、真横にぶん投げる、と言った選択肢があった。
しかし横に投げるとどうしても距離が離れるのは良いが、何処まで飛んで行くか分からない。
着地地点に他の何かがあって、それが邪龍の自爆に巻き込まれたりした場合、一緒に消滅だ。
ソレはいけない、いけないと思っての真上への放り投げだった。横投げしてもし巻き込まれたのが大事な「何か」であったならば、それの保証は俺にはできかねる。
それともう一つ、ちょっとした懸念もあっての事で横に投げるというのは却下したのだが。
「何処まで打ち上がった?咄嗟に首を上に向けたけど空高く舞い上がり続けているハズの姿が確認できなかった・・・」
それだけの速度であの巨体は舞い上がって行ったと言う事だ。もしくは真上では無く、少々斜めに飛んでいった可能性も否定できない。
斜めに飛んでいったとしても遥か上空での爆発になるだろうから他への被害は無いだろうが、懸念は残る。
こうしてモノノフの兵たちも、オンミョウの術者も、目の前から消えた邪龍は何処へ?と言った視線を突きさしてくる、俺へ。
そう、邪龍のいたはずの場所に俺が立っていたからだ。俺の「力」の事は全てを解ってはいないとは言え、数名が知っている。
「サイトウ?お前、何やらかした?」
「サイトウ殿、その、先程の自爆と言うのは・・・」
二人の代表がそれぞれ聞いて来る。しかし俺はソレを今気にしちゃいない。
気にしなければいけないのはどのタイミングで邪龍は爆発するかだ。何も存在しない空へと視線は向け続けたまま。
何処まで飛んでいったか分からないモノをじっと待つ。待つしかない。
返事をせずにマジな顔して空を見上げる俺にどうやら二人は何か納得してくれたようで一緒に空を見上げてくれる。
それにつられて兵も術者も一緒に見上げ始める。そしてようやっとその時が訪れた。
太陽の光を凌駕するような巨大な白い円が浮かび上がる。その熱は地上に居る俺たちにも微かに届いた。
ソレは多分、邪龍の残りの命を全てつぎ込んだモノであったに違いない。
もしそれが地上で起きていたらこの場の全てが消滅、どころの騒ぎじゃ無かったように見える。
このヒノモトの地形が超大幅に変動し、人々の暮らしへも危機的状況に追い込まれるだけの変化が起きただろう。
それを想像させるだけの時間、その白い円は空中にあり続けた。
そんな想像を一拍置いてセイメイ様は気付いたのか、青い顔をした。
お殿様の方はと言えばこの白い円を見つめ続けている。その目は大きく開いていた。
そう言った時間が過ぎ、円は見る見るうちに小さくなっていき、終息、消えた。
「後は懸念が残ってるか、一緒に消えたか。落ちてくる場所はどこらへんだ?」
遥か上空での出来事だ。そのまま「残りカス」が落ちてきた場合の事も想定しなければならない。
あの自爆で邪龍の何もかもも一緒に消滅していればいいが、エネルギーだけ放出してその身体の方はと言ったら残りカスとして落下してくる、そんな事になったら不用意にこの場から動いたりはできない。
喜びで浮かれて落下してくるあの巨体の下敷き、なんて締まらない被害は避けたい。最後の最後でそんな馬鹿は見たくはない。
(力を使わなけりゃここまで冷静になれるのになぁ。って言うか、ここまで考えるって言うのはただ単に心配性なだけなのか?)
キッチリとこの手で止めを刺した事を確認しない事には喜びはできないでいる俺だった。




