1130 これしか思いつかなかった俺の足りないオツム
この時の俺が咄嗟に叫んでも遅かった。
「自爆されるぞ!邪龍を結界で何重にもして閉じ込めろ!早くしろぉ!」
コレにサッとセイメイ様が俺の方を見てくる。けれどもそんな時間をするくらいならセイメイ様が真っ先に邪龍へと結界を張ってくれた方が良かった。
間に合わない、そう思って俺は「力」を使う。
(でも、もうコレどうする?邪龍を俺が本気で殴ってぶっ殺したとしよう?でも、それでもこの自爆が止められなかったら?)
まさかそんなハズはと思いたいのだが相手は「竜」である。どんな事になるか分からない。
止められれば良し、粉々にして吹き飛ぶほどに邪龍へと拳を何度も撃ち込めばきっといける。
けど、ここでもし、しくじったら?微かにでも自爆が止まらなかった、などと言う可能性が残れば?
恐らくだがその瞬間に加速解除して俺も巻き込まれて死ぬ。
只々邪龍をボコボコにするだけではいけないという結果が頭に浮かぶ。
なにせこれまで俺が「力」を使いぶん殴ってきた中で「思い通りにいった」という場面はそんなに無い。ここで求められるのは確実に自爆を止めると言う事だ。邪龍の単純な死では無い。
ならば少しでもこちらの負け率が混じっているのなら、それは死に繋がるのだからやめておきたい。俺は頭を悩ませる。
(そもそも、この追い詰められた自爆の威力範囲は?この場に居る全員を始末するほどの威力?どうなんだ?)
まさか九尾だけを道連れにするだけの規模だとは思えない。散々邪龍を痛めつけてきたモノノフ、オンミョウを無視したものとは到底思えなかった。
(アレをやるか?でも、派手になるだろうし、あんまりやりたくはないんだけどなあ・・・)
他にいい方法が思いつかなかった俺はとうとう覚悟を決めた。
邪龍のその身体の下へと、地面との間に手を差し込む。そしてソレを一気に空へと放り投げるように振り上げる。
高さが足りないと自爆エネルギーに巻き込まれるだろうから、執拗に何度も何度も何度も。
そう、「人工の竜」マンティコアをバハムが処理した時のアレだ。
だけど今回はもっと念入りに、充分な高さへと打ち上がるように、あの時の比では無い位に空へと邪龍が打ち上げられるようにやっておく。
(心配性と言われてもここで手を抜いて死んだらマヌケなんて言って笑う事もできない。死ねばそこで終わりだ)
俺は未だ死ぬ気は無い。じゃあだったら俺だけここから逃げればいい、などと思える程、薄情でも無い。
かなりこの「ヒノモト」の人々と関わった。見捨てる様な真似もできないし、最初からかかわらない様にする事もできなかった。
きっと俺の行動を他人が見れば中途半端だと謗るだろう。でも、人情ってそういうモノだと俺は信じたい。自分でも自身の思いや行動に一貫性が無いな、とも思っているけれど。
(この「力」を持っていて使わない手は無いけれど、だからって言って積極的に自分から「こう!」と言って積極的に使っていきたいモノでも無いんだよなぁ)
もうソロソロいい加減にしようと思って作業を止める。もう大丈夫だろう。何十回、同じ行動を繰り返したか数えていない。
しかし「大丈夫」と言った確信が持てないので不安は残る。けれどもここでこうしてこの状態のままでいられる訳じゃない。解除しなければこの先の結果も分からないまま。
(こういう時って勇気じゃ無くて度胸っていうのかね?じゃあ、しょっしゃ!)
覚悟を決めて俺は加速を解除した。




