1125 どうやらクライマックスに近づいているようです
静かに、しかし気合の入った斬撃が邪龍の身体に入るのだが、最初に付けた傷よりも浅い。しかし牙地流はコレに。
「ふはははは!なんだ!斬れるではないか!皮を脱ぐ毎に硬さが上がってもこの程度か。完全に斬れなくなる程にはならんとは。弱い!弱すぎるぞ邪龍!」
彼らはそう言って獰猛な表情で邪龍の身体、その全身を切刻んで行く。一刀入れたらその場からすぐに離れて別の場所へと移動しているのだ。
邪龍の巨体は脱皮するごとにその大きさは小さくなって行ったが、それでもまだまだ巨大だ。
側まで行けば首を上に向けて、その邪龍の顔をかなり見上げる形になる程度には。
「牙地流がマジでコワイ件について。なんだこいつら・・・バトルジャンキーにも程があるだろ・・・」
どうやら今の邪龍に付けられる傷を、最初に仕掛けた時の深さにできれば、それを自分たちの「斬撃の威力」が上がったと見為すと言った考えで斬っているようだ牙地流は。
ソレはもう楽しそうに、この五人は邪龍に傷をつけ続ける。次、そしてまた次と、斬れば斬る程に僅かずつ深く付いて行く傷跡に喜びの表情を称えながら。
だがこれを黙っては見ていない邪龍。チクチクと傷を受ける事が鬱陶しいのだろう。
右の首がこの五人に向けてブレスを吐こうと口に炎を溜めたのだ。
だがしかし、モノノフ側でこれを潰そうと構えていた人物がいた。
「お前らだけに活躍されたら俺の立つ瀬が無いんでな。それとよ、邪龍よ。お前に一番深い斬り傷を付けた者を忘れちゃいねえか?・・・オラよぉぉオオオ!」
気合と共に放たれたソレはお殿様の飛ぶ斬撃。白い三日月が宙を駆けそのブレスを吐こうとしていた首、その大きく広げた口の中へと飛び込んだ。
ぶしゃり、それは邪龍の口内がそのお殿様の攻撃で大きく、そして深く傷付けられた音。
外側は強固になっても内側は脆いまま、というお約束展開がここでも通用した。
しかしお殿様はこの戦闘中の緊張状態で放った事で、どうやら精神をだいぶ疲弊しているらしく顔色は優れない。
コレはもう、そう何度も今の攻撃がすぐには放てない事を意味していた。
ミズキの時とは違う緊張感。自分の部下が周囲に居て、それを守らねばならない、指示を出さねばならない、そんな負担が重なってミズキの時とは違う重圧をお殿様は背負っているせいだ。
でもこの一撃は効果が大きかった。邪龍が今後、迂闊にブレスを吐けないと言う事に繋がったからだ。
お殿様の攻撃を食らった首はもう口を開かなかった。代わりに真ん中の口が大きく開くが、絶妙なタイミングでそこに爆発が起こる。
ソレはオンミョウからの攻撃だった。
真っ直ぐに三枚の札がその大きく開けた邪龍の口の中へとジャストミートする。するとそこから大爆発が起こってブレスが止まるのだ。
コレに大いに邪龍が叫び声?を上げる。「ジャアアアアア!」というソレは大分イラついている様に聞こえる。
未だにまとわりついてその身体を斬り刻む牙地流たちに邪龍の尻尾が叩きつけられるのだが、それをヒョイヒョイと彼らは躱すものだからイラつきが急上昇すると言う所らしい。
先ずはこの鬱陶しさを解消したいとばかりに邪龍は身体をじたばたさせて五人をその身体の下敷きにして潰そうと企むのだが。
「弱い!弱すぎるぞ!それでも「龍」か!つまらん奴め!だが丁度よい硬さよ!我らが強さを上げる糧となって沈め!」
より一層にその斬撃の速度、回転数が上がっていくのだから、この五人の恐ろしい事この上ない。
暴れる邪龍のその巨体を躱しざまに斬りかかり、その身体が暴れているのにもかかわらずに斬りかかる。
これにはモノノフの兵たちはまるで化物でも見るかのような眼差しを牙地流たちに向けている。
俺もその内の一人だったりする。これには呆れてしまって何も言えない。
この攻防はその後しばらく続いた。




