1104 ゴロゴロは終了、出発のお時間です。
それからは別に何かが起こったりはしなかった。しかし屋敷は静かではあるものの、何やら人があちこち忙しなく動く気配だけがしていたが。
そんな中で俺のしていた事はと言えば「何もしていない」だ。俺が準備を手伝えた訳でも無く、お殿様やセイメイ様が邪龍討滅へと駆けずり回っているのを只々横目で眺めていただけ。
手伝う事は無いか?と二人に問いかければ「その時になって力を思う存分発揮してくれればいい」などと言われた。
なので俺はゴロゴロ、時に狐をモフモフ、食事をし、昼寝をし、屋敷の雑務なんかの手伝いをし、時折お殿様の稽古に付き合い、などと言った感じである。
「心が凪いで行くなぁ。こんな日々が欲しかったんだ、欲しかったんだが、これも今一時だけの事か・・・」
この後に控える邪龍討滅、などと言った大掛かりな作戦に出なければいけないと思うと気が滅入る。
その邪龍とやらをブッ倒さなければこのヒノモトの未来が危うい等と聞かされているのだから「行きたくない、協力しない」などとは言えない。
時折ミツバが俺を見て侮蔑の視線を送って来ていたりもして居心地がその時は悪くなる。
どうやらミツバはこの屋敷に残ってシノブ本国との連絡を取っている様子だった。
そんな日々を五日もするとどうやら準備が整ったそうで出発すると声が掛けられた。
「おう、サイトウ、頼りにしているぞ!奴が封印から出てきたら一気に攻めてカタを付ける!」
「邪龍は封印のせいで弱っているハズです。封を破るのに力も相当に消費して出てくるでしょう。その時を討ちます。」
お殿様もセイメイ様もヤル気に満ちている。そしてミツバも。
「私はお先にアキンドへと言って総元締めと面会と準備の話を付けて参ります。軍はそのまま封印の要石へと向かわせ、陣を敷いていてください。」
俺は一緒にその封印とやらの地へと向かう軍と一緒に行く事になる。
アキンドとやらにも行って見たい気持ちはあったが、邪龍とやらを片付けてからでも遅くはないか、と考え直す。
こうしてセイメイ様の屋敷を出る。オンミョウの外、ミズキとやり合ったあの場所に術者が五十名程整列していた。
恐らくはこの数が今のオンミョウで戦える人数なのだろう。かなり印象的に少ないと感じられた。でもコレも先日の事のせいだ。仕方が無いと言える。
「サダノブ、あなたも我々と一緒に行くのですか?戻らずにいいのですか?」
結局邪龍の封印が解けるのが早まったと言う話のあの後、お殿様はモノノフには戻らなかった。
「おう、もう既に話し合いは終わらせてあっただろ?だから向こうでは準備出来次第に「待ち合わせ場所」に向かうように言ってある。途中で合流だ。」
この言葉を聞いていた術者の程半分以上が顔をしかめていた。どうやらもうこれらを治す時間は無い様子だ。
ミズキの件もあったのにも拘らず、まだ安いプライドとやらが顔に直ぐに出ているこの集まった術者たちは大丈夫だろうか?と俺は一瞬だけ不安になった。
「分かりました。では参りましょう・・・大妖殿も居ますから。心強い限りです。」
減った術者の補填はこの九尾がする予定だ。九尾がどんな事ができるかはまだ見せて貰っていないが、それでも補って余りある程の戦力だというのが分かる。
なにせ術者たちが九尾へと目を向けるのだが、その内包する強力な力にでも恐れをなすのかサッと目を背けるのだ誰もが。
その金色の九尾の横にチョコンと並んで座る銀の子ギツネ。それでも尻尾がいつの間にか六本に増えているのは何故だろうか?セイメイ様の屋敷に戻ってからは俺はイカを与えていない。
この事実に俺は目を背ける。もういいじゃ無いかどうでも、と。
そんな銀の子ギツネも並みの術者などを遥かに超える力を持つのだろう。術者たちは子ギツネを見て悔しいやら、情けないやらと言った複雑な難しい表情を浮かべる者が多い。
「では、参ります。」
このセイメイ様の一言で術者はそれぞれの牛車へと乗り込み動き出した。




