1101 二人の使者
こうなると展開が早いモノで。
「失礼いたします。セイメイ様、お客様が参りました。シノブの使者、アキンドの者と二人です。いかがいたしますか?」
この屋敷で下働きをしているだろう男が襖を開けて静かにそう告げる。
俺はいつも思っていた。何でこんなタイミング良く?って言う位に不自然にドラマとかは物語が先に進むよね?と。
今この時もその展開らしい。セイメイ様が「ここにお通ししてください」と口にしている。
少々の時間が過ぎた後、その二人が部屋へと入ってくる。
「どうもセイメイ殿。お久しぶりで御座います。新商品ができたので後程見て頂きたく。」
そうニコやかに挨拶をするのはアキンドの者なのだろう。その服装は和服に前掛けと言った、もうコレは「商売人です」とでも主張するものだった。
こうして家に上がるのに前掛け付けたままはどうなの?と思ったのだが、それは俺だけみたいだった。コレが普通らしい。
この人物も金髪碧眼で違和感が抜群なのだが。しかもロン毛とかドンダケやねんと俺だけが多分心の中でツッコんでいるのだろう。
「暫くぶりで御座います。セイメイ様に至急お伝えする事が御座いまして、こうして参りました。」
次に挨拶をしたのは袴、刀を持っていてまるでモノノフ出身者だった。
そしてどうやら急展開を告げに来たと、もろくそ分かるセリフをご丁寧に口にする。
この二人がお殿様の方にも「サダノブ様もご健勝で何より」と頭を下げる。
こうして二人が座って沈黙が訪れる。どうやら誰が先に話をするのかを窺っているらしかった。
まだ飯を食っているお殿様は当然喋る気は無いみたいで我関せずといった顔で飯をおかわりしている。
この空気を破ったのが九尾だった。「ぎゃーう」と一鳴きすると、ぎょっとした顔をしたのはアキンドの商人だった。
「な?!今のは一体何の?セ、セイメイ殿?コレは?」
シノブの使者は別段静かだ。何も言わないばかりか、その表情も崩れていない。
で、九尾が何故鳴いたのかと言えば「私も何かできる事は?」と聞いてきたのだ。
さっきまでの会話を聞いていて考えていたのだろう。俺への恩返しと言う事でこの屋敷の庭で子ギツネと日向ぼっこをしていたが、完全には眠っていなかったようだ。
そしてこのアキンドの商人とシノブの使者はこの狐親子が見えない方向の廊下からやって来たのでこの二匹には気付けなかったのは仕方が無い。
いや、寧ろシノブの使者の方は既にこの二匹の存在を知っていた様子ではある。
俺は襖を開けて廊下に出て九尾に声を掛けた。
「うん、その時になったら俺と一緒に遊軍してくれないか?それで恩返しと言う事で一つ納得してくれ。あ、子ギツネは危険だから後方に下げておいてくれよ?って言うか、何で子ギツネまでやる気に満ちていますか?」
俺は九尾にだけ手伝って貰えればいいだろうと思っていたが、子ギツネまで起きていてヤル気に満ちた目を俺へと向けてきているからどうしようと悩む。
「あー、無口なんだね。うん、そういう性格なんだな二匹とも。分かった、分かった。そんな目で見なくていいよ。子ギツネにも助けてもらうよ。その時になったら宜しく頼む。」
俺はそう言って部屋へと戻る。当然コレをアキンドの商人は目にしていて震えて狐親子を見ていた。




