11 家族、その愛
ぽつりぽつりと、静かに父母は語った。
深い愛情を感じさせる声で。俺を何があっても守ると覚悟を秘めて。
そこで自覚した。それは遅すぎる位だが、まだ間に合った。
(この人たちは俺を守ってくれていた。)
今まで俺は「俺」の事で精一杯だった。この二人の「子供」である事など真剣には考えてなどいなかった。
俺は愚か者だ・・・中身の精神は大人、などではなかった。
知らぬ土地に放り出され迷子になってた子供・・・必死だった、自分の事だけで。
守られていた、愛されていた事に気づきもしなかった。
「ありがとう、父さん、母さん・・・」
いつの間にか俺は大量の涙を流していた。
この時やっと「家族」になった。
涙を流す俺を見て、父は何かを我慢するように拳をギュッと握り直し、母は自身に流れる涙を堪えようとすすり泣いている。
だがまだ全部は片付いていない。条件というやつだ。
俺は涙を止めてその話を聞く態勢になる。
「条件はいくつかある。それは・・・」
他の村民に影響が出ないように村内を出歩かせない事。
これは俺が6才になるまで。
仕事を手伝わせるのは自分の畑と家に限定。村の行事には参加させない。
森での狩りは年相応になってから許可。
俺からの村への接触は一切許可しない。
逆に向こうからの接触は自己責任。
他に細かい注意事項はいくつもあったが、それらの最後に、一拍置いて一番大事な条件が告げられる。
「お前は成人すればこの村を出ていかねばならん」
俺は納得していた。
許可を取るのに父は説得を必死で頑張ってくれたのだろう。それだけ反発は強かったはずなのに。
かなりの数の条件が付いたとはいえ、成人するまで村に居られる事は破格な程だろう。
「お前がこの村を出ていくまでに何でも一人でこなせるよう、全てを教えるつもりだ。」
「苦労を背負わせてしまってごめんなさいね。」
「大丈夫だよ。心配しないで。だって俺は父さん母さんの息子だよ。」
そうだ、こんなにも俺を愛してくれているのに、できない訳がない。
この一言で充分伝わった。
「そうだな、お前ならできる。何たって私たちの子だ。」
「言葉が喋れない期間も長かったけれど、今は大丈夫ですもの。」
ここで母のセリフに、おや?っと疑問が出た。
(今日の4人組、確か3才でペラペラって、それが結構衝撃だったな。)
「俺がまともに喋れるようになるのが遅かった理由って・・・?」
咄嗟に口をついたその小さな一言に、父母は暗い顔で俯いてしまった。
「それは・・・。」
長い沈黙を経て、重い口を開く父の表情は諦めの感情が滲んでいる。
「加護無し、それが原因、とみなされている」
「あなた、もういいじゃない。この子はもう充分言葉は理解できてるじゃない・・」
母は、父の次の言葉を遮ろうと口を挿んできた。
だが父は強い決心で言葉を続ける。
「この話をする前に、加護無し、マナとは何か?と聞いてきたな。」
改めて畑で尋ねたことを確認される。
それで母は全てを察した様だ。
「加護無し、マナ、それは俺の事を指してるんだよね。教えて。加護無しとは何か?マナって何なのか?」
もう一度、今度は強い口調で改めて尋ねた。




