1097 そりゃ騒ぎにもなるよ
さてオンミョウに入る際には盛大に、それはもう大騒ぎになった。
なにせ金色の体毛を持つ強力な大妖が一緒になって入ってくるのだから。
それと一緒に並んで歩くのはモノノフのお殿様や、その隣にはこのオンミョウの長のセイメイ様が居るんだから騒ぎにならないなんて事は絶対に有り得ないと。
「何だあれは!凄い!あれほどの力の満ちた妖魔など存在するのか!?」
「セイメイ様があれを従えているのか?どうもそうには見えない?」
「どうやったらあんな大妖が大人しくなるんだろう?俺は震えが止まらんぜ・・・」
「おい、あれはついこの間の襲撃の時の大妖じゃ無いのか?だが、あの時の奴と体毛が違うしな?」
「お前ら呑気に何言ってるんだ?こ、この場から一刻も離れた方が良いんじゃないのか?」
「そうだよなぁ。でもよ、見入っちまうんだよどうしても。身体は逃げようと緊張してるのに、心が、目があの大妖から離れねえ・・・」
「サダノブ様がお戻りになられた!無事だったのだ!どうなる事かと思えばあれほどの大妖を共に帰還するとは。」
「うちの殿様はあんなのとやり合ったって言うのか?それでもこうして生き延びたのか。やっぱスゲエわ、うちの殿様はよ。」
「でもさ、アレだけの大妖を何でこのオンミョウに引き入れたんだ?万が一があれば俺たち今すぐにでもお殿様と一緒にあれを退治せにゃならんのじゃないのか?無理だろどう考えてもあれ?」
驚き、困惑、恐怖、諦め、喜び。二人の統治者が無事に帰って来た事をこの場に留まって待機していたモノノフの兵もオンミョウの術者たちも喜ぶのだが、それも少しの間だけ。次にはそれ以上のモノでひっくり返されている。
そう、九尾に目が釘付けなのだ。何故この場に、どうしてこの場に、それで頭が次第に一杯になっていく。そんな疑問を解消しようと皆、一生懸命に自分が納得できる理由を探す。
でもそれをまたやはりひっくり返す理由も自然と頭に浮かべざるを得ない。
こんなのに敵う訳無い、である。口々にそこかしこから「どうしようもない」と言う言葉が漏れ出てくる。
「皆さん、鎮まってください。先日オンミョウを襲った大妖を操っていた元凶は倒してきました。今回はこれにて一件落着です。各自、事後処理へと散りなさい。以上です。解散。」
セイメイ様は静かにそう連絡事項を淡々と述べた。コレにまだ九尾の事を聞きたい、と言った顔になっている者も多かったが、誰も声を出さずに各自この場を離れていく。
「おう、お前たち、聞いたな?問題は解決した。後はモノノフに帰るだけだが、俺はまだオンミョウに用がある。だからお前らだけで先に帰っていてくれ。」
お殿様だけまだこのオンミョウに残ると言う事らしい。側仕えの者がお殿様に指示を貰いに近づく。
と思ったら何やらその側仕えがお殿様に文句を小声で訴えていた。
コレにお殿様が命令を出す。
「お前が率いてモノノフに戻れ。いいな?コレは命令だぞ?あぁ?護衛?そんなモノは要らん。何だったら今すぐに率いてきた奴ら全員とやり合っても勝てるぞ今の俺は。」
お殿様は凄い自信を込めた声音でそう言い放つ。そういう問題じゃないと言って側仕えが食い下がるが、コレにお殿様が「賭けだ」と言っているのが聞こえた。
お殿様はどうやらこれから全員とやり合うつもりらしい。本当に勝ったらお殿様の命令通り動く事。お殿様が途中で一度でも「一本」を取られたらモノノフに一緒に帰還する賭けだそうだ。
「やれやれ、サダノブ、程々にしてくださいよ?さあ、私たちは屋敷へと先に帰っていましょうか。」
こうしてお殿様をほったらかしにして俺とセイメイ様、それと狐親子は屋敷へ向かうのだった。




