1092 間に合ったようです。でもまたピンチ
ゆっくりと刀が抜き放たれる。そこから白い三日月が徐々に現れ出してミズキに迫る。
その狙われているミズキはその攻撃に気付けない。いや、気付かない。
その一撃は致命の一撃、ミズキの身体から血飛沫が舞った。
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「大妖殿、もし今あなたの掛かっている術の効力が弱まっているようでしたら自力での解除をお願いします。これ以上私も札を消費するのは辛いので。」
私はずっとこの大妖に話しかけながらミズキの側から離れた。術の効力は距離が離れていればいる程に弱くなると読んだからだ。
ソレは何故か。この大妖が私の攻撃を先程から「避けて」いるからだ。
話に聞いたところでは「かき消される」だったはず。ならばと考えた。弟子たちの術が消され防がれたのはミズキの術だ、と。
大妖は私へとその巨大な口を開き噛みつこうとしてくる。しかし私も用意してきた札でそれを防ぎつつ戦っている。
向こうの二人がもしかしたらしくじった時、私はこの大妖を倒さねばならないのだ。
二人へは信用を置いている。しかし、それだけでは駄目なのだ。その信が折れた時に絶望を得てしまう。
その後の最悪を想定して策を練らねばいけない。だからこそ私は時間を稼ぎつつもこの大妖の力を把握しておかねばならないのだ今のうちに。
ミズキからの命令で大妖は私を本気で殺そうとしては来ていない。しかし気を抜けばすぐにかみ殺されてしまいそうな、そんな攻撃だ。
「あの黒い髪をした者は貴方の子を助けたそうです。ボロボロで体力が減っていた所を餌をやり、持ち直させたそうですよ。」
私はこの大妖に言葉が通じるものだとの前提で話しかけ続ける。
「もし貴方が術を解除したならば、私たちの味方に一時的でも構いません。なっては頂けませんか?ミズキを、貴方を拘束したモノを倒すために。」
鋭い飛び掛かり、そして前足での打ち払いが次々に私に迫る。しかしコレは大妖が先程よりも手加減をして攻撃してきている様に感じられてきた。
速度もキレも無い。漠然とした動きになり始める。それでも当たれば戦闘不能に追い込まれてしまう程に強力だ。
「私の友がミズキの力を削いでくれています。貴方も感じるのでしょう?自らを縛る力が弱まっている事を。」
次に放たれた大妖の攻撃は先程とはうって変わって、今までとは比べ物にならない一撃が放たれた。
私はソレを札を三枚取り出して防ぐ。しかしその爪での攻撃は僅かに大妖の方が威力が勝り、私は吹き飛ばされる。
怪我はしなかったのだが、吹き飛ばされた影響で私は地を舐める事になる。
ここで止めを刺すかのように前足で叩き潰す構えを見せる大妖に、私は覚悟を決めた。防げない、と。
しかしそれは一向に振り落されなかった。
「やって、くれましたか。遅いですよ、サダノブ、サイトウ殿。ふぅ~。命拾い、しましたね。」
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「くそおおおおおお!いたいいいいいいいいい!ちくしょう!畜生!ちくしょおおおお!」
ミズキの叫びが木霊する。そう、お殿様の一撃がミズキを斬り裂いたのだ。
そう言えば闘技場都市に入る時に絡まれた阿呆から似た攻撃をされた事を俺は思い出す。
「まともに当たってれば「ああなっていた」って事だよな?うわぁ、あの時に避けていて正解だったわ。」
もちろん当たる気なんてその時にだってこれっぽっちも頭に浮かばなかったからこの背中に流れる冷たい汗は今更だし、もう気にしないでいいモノだ。
だけどミズキの身体を斜めに走る深く赤い線を見るとぞっとする。それは今もジトジトとミズキの着物を赤く染め続ける。
しかしそれも突然に止んだと思えば、その傷は見る見るうちに塞がっていくのだから気持ちの悪い思いだ。
どうやらその致命の傷を治すためにミズキは術を自分の身体にかけたようだった。
「はぁはぁはぁはぁ・・・やって、やってくれたわねぇええええ!サダノブぅううううう!」
ミズキの怒りが今度はまたお殿様に変わる。既に先程の一撃を放った反動でまた膝を地についているお殿様にはもう指先一つ動かす余力が無いように見えた。




