1085 何がおかしいのか
俺は庭に立っている二人の前に立ち加速を解除する。そして何の前触れもなく「はい」と言ってセイメイ様に短刀を差し出す。
コレにいきなりの事で目を丸くして驚くセイメイ様とお殿様。
お殿様の方が驚いたのはおそらく俺が短刀を取り出す仕草が見られなかったからだろう。
「・・・どうしてこんなものを私に渡すのです?貴方の力とどういった関係が?・・・コレは!どうして貴方がこれを持っていたのですか?!」
「なんでい、俺と模擬戦でもして見せりゃセイメイも納得、俺も納得だと思ったのによ。ん?おい、セイメイ何をそんなに驚く?」
セイメイ様は短刀を抜いている。そして刃の部分を見て驚愕していた。
ソレは多分だけど家紋でも彫ってあったのだろう。そしてそれを見て何故俺がそんなモノを持っていて、そうして渡してくるのかと言った事をきっと考えている。
でも俺はここで答えを口にしておく。
「道端で馬鹿男三人、怯えている女性一人。はい、さて、その男たちは一体何者でしょう?答えはその短刀です。軽くそいつらぶっ飛ばしてパクッてきました。」
「・・・貴方は何を言っているのです?この印はこのオンミョウの貴族家の物の中の一つです。・・・貴方は一体なにをしたのですか?分からない、どうしたらこの場からそんなモノを持ってこれるのか?」
「いやいや、言ったでしょう?馬鹿が三人、女性一人を囲んで迷惑を掛けていたんですよ。だから、そいつらをぶっ飛ばして懐にあった短刀をこうして持ってきたんです。コレで証明になるでしょう?俺の力ってやつの。」
お殿様がその時に大笑いした。コレにセイメイ様は訝し気な目をお殿様に向ける。
「何がおかしいのですサダノブ?どうして貴方はそんな風に笑えるのですか?」
「いや、何、俺たちが「見てやる」なんて偉そうにしたのがもの凄く滑稽でよ!あっはっはっは!いやー参ったね!俺たちは弱い。そう思い知らされた。実に、あぁ、昔の自分を思い出させてくれたぜ。」
「・・・昔の自分ですか。そうですね。彼に虚言を口にする理由が無い。・・・ありのままを受け入れる、そうか。私たちは弱いですね。目の前の事実を受け入れられなくなっていたとは。私も耄碌してきたのですかね。」
セイメイ様も今度は苦笑いになる。二人がどんな気持ちになって、どんな風にこの結果を受け入れて納得したのか俺には分かりはしない。
しかしどうやら合格と言う事らしい。ならばもう後は「その日」までを俺はこの屋敷で待てばいいだろう。
「あのー、この屋敷でだらだら過ごすのは暇なんで、何か仕事とかくれません?」
ここで俺は空気を読まない申し出をしておく。この時でないとズルズルと何もしないで畳の上でゴロゴロと過ごしてしまいそうだと思ったからだ。
そしてその二日間は長い、きっと長いのだ。なのでここでもモノノフの屋敷でもしたように雑用をさせてもらいたいと願い出る。もちろん俺ができる範囲でのお手伝いをさせて欲しいと言う物だ。
「ふ、ふふふふ。そうですね。ありがとうございます。ならば薪割りと草むしり、後それから・・・サダノブの相手をお願いします。」
「おうよ!今すぐに俺は刀を振り回したくて我慢できねえ。相手してくれ。」
俺が思っていたよりもちょっと斜め上が返ってきた。
セイメイ様は何が可笑しかったのかちょっとだけ笑って、すんなりと俺の申し出を受け入れてくれた。
しかしそこに何故お殿様の相手も入れてくるのかと思ったら、そのお殿様がいきなり真剣を抜いて素振りを始める気マンマン、どころじゃ無く、俺へと今にも斬りかかってきそうな雰囲気である。
「うわぁ・・・どうしてこうなった・・・」
「サイトウ!俺の修行の相手をしてくれ。ミズキの前に立つ時には今の俺よりも一段階強い俺で立ちてえからな!よっし!行くぞ!」
俺の同意も無しに一歩踏み込んでくるお殿様。そしていつの間にか俺たちから距離を置いてこの場を離脱しているセイメイ様。
セイメイ様はまるで「巻き込まれないように」と言った感じでスススススと足音すら響かせずに離れていた。器用過ぎる。
気合に満ちた唐竹割を放ってくるお殿様に俺は思う。
「結局相手しなきゃいけないのか・・・」
この後の今日の残りはお殿様の相手で全て終わった。




