1084 癒されるお散歩
俺は加速状態に移行する。もちろん最大にまで。で、そのまま俺は屋敷の外に出る。
そう、このまま観光してしまおうと思ったからだ。この状態でのデメリット、そう、長時間この状態でいると思考が大幅に鈍ると言う事を分かっていて。
(道行く時には人にぶつからないようにすればいいさ。通行が困難と見なせば他の所をブラブラすればいい)
俺はあくまでも人にぶつからないようにすれば何も問題は起きないと思ったのだ。この状態なら絡まれる心配も無いし、問題が向こうから来る事も無い。
俺がバッタリ「嫌だな」と思ってしまうような場面を見てしまうと言った事は起こり得るが。
それでも俺は道を行く。どうやらこのオンミョウは花の時期らしく、あちこち道端に整列して植えられている木々には美しい花が何処も咲いていた。
どこぞの屋敷の壁の向こうに見える植えられている木々からも赤、青、黄色、紫、橙とカラフルに咲き誇り俺の目を楽しませてくれている。
(花を見て楽しいとか、綺麗だなって素直に思える感性はこっちに来てからできたものだなこりゃ)
俺がサラリーマンやってた頃は桜くらいしかこんな感想は出てこなかった。もしくはゲームグラフィックの画像の美しさ位か。
こうして自然に咲き誇る様々な花々に対してこんな風に思う事なんて今まで無かったように思う。
そうして道をあちらに、こちらにと歩いていれば、そう、いつの間にか花に目を奪われて迷子である。
しかし今の俺に時間は関係無いと分かっている。怖いのは今の俺が突拍子も無い事を仕出かさないかどうかだけ。
ソレは今一番に気にしなければいけない事だ。しかしその傾向は今は見られない、感じない。
不思議に思うも「良い事」だと思って無視する。コレはこれでいつもと違う感覚に推測はする。恐らくだが「心」が洗われているからだ。
美しい花々を見て心癒されている。コレが今一番違う所だ。今までの場合との違いはこれしかない。
(そして何で一気にその気分を害する光景がいきなり目に飛び込んでくるのか?)
花を愛でつつ何処ぞの誰かの屋敷、おそらくだがこのオンミョウの貴族の一つと見られる屋敷の壁の角を曲がった時にソレが目に入りこんできていた。
女性が三人の男に囲まれて身動き取れない状況になっている。しかもニヤニヤ顔の男たちのその身なりは貴族だろう。
女性の方は一般人と見られる。男たちの着物と比べたら凄くみすぼらしいと言ってしまうと失礼かもしれないが、そんな感じだ。
そして女性の顔は凄く怯えていて迷惑だと訴えている表情だった。
(どうせ俺がこの場で助けたって言うのはこの女性にはバレないし、そうだなぁ。こいつらの持ち物の一つくらい持って行けば証明になるかな?)
ここで俺の頭は悪戯を思いついてしまった。こうなるともうその思考は止められない。
男共の肩をチョン・ちょん・チョンとほんの少しづつ、軽く人差し指で俺は小突いて行く。
そしてその内の一人が腰帯に挿していた護身用の短刀だろうか?ソレを慎重に抜き取り回収する。
(おっと、いきなりの事で女性がパニックになってしまうのは駄目かな。じゃあ)
地面に俺は「逃げなさい」と書いてその場を後にする。もうお散歩は充分だろう。セイメイ様の屋敷へと戻るつもりになった。
幸いにもこのオンミョウへと入った時に通ってきた大通りはすぐ側だった。
こうして俺は「力を見せてくれ」と言われたセイメイ様への「お土産」を持って屋敷へとゆっくり帰った。




