1054 それは塩じゃない
ここで退いても、ましてや続行してもトウノスケの「終わり」は決定してしまった。
しかしそうはしないとばかりにツバキがトウノスケを「救う」言葉を掛ける。
「先鋒はサイトウ殿の勝ちで決定ですね。ならば、後の二人は我々が相手をしましょう。良いですか姫様。」
「・・・ふむ、仕方が無いのぅ。死なんでおくれツバキ。ワラワの友よ。」
姫様はこれを了承した。即ちこの戦いが勝ち抜きだったはずが変更されると言う事だ。
どうやら決闘が始まってもこうして同意を得ればルール変更もして大丈夫であるようで。
コレに笑うのはトウノスケだ。
「く、くっくっ、あーっはっはっ!コイツが相手で無ければどうと言う事は無い!貴様らの力が俺たちのに敵うと思っているのか?思い上がるな小娘が!調子に乗ったその態度!死んで後悔するなよ!」
いい気なものだ。俺が手を出さないとなればすぐにソレにトウノスケは乗ってきた。
まあ俺とやっていれば確かに確実に殺してはいたので崖っぷちを脱出できるのならなんにでも縋りつくだろう。ソレが敵から送られた塩でも喜んで飛びつくと言うモノだ。
しかしコレは上杉謙信が武田信玄に塩を送ったなんて話では無い。あの話も「義」からなんかじゃ無くて塩と言う「ビジネス」だったのではないかと言う話もある。
タダで送ったなんて話では無く、ちゃんと代金は受け取っていただろう。塩の流通を止めずにいた、というだけでソレはただの商売だったはずだ。ビジネスチャンスという。
ここで歴史の話、しかも日本の話をしている場合では無い。ツバキがトウノスケに対して送った塩は自らの手で「敵を討つ」ためだろう。ここでのこのルール変更のお代金はトウノスケの命と言う事だ。
結局はこの場ではどちらかの命しか残らないと。
ツバキ自らの手での父の敵討ちが最初からの目的である。俺はその露払いだ。この決定に俺は何も文句は言わない。
ここでツバキが、ソウシンが、敗れ負けようとも、そうなれば「それまでだった」と言う事だ。
これ以上は俺が出る幕は無い。手を出す気は無い。なので素直に引いた。そして俺はツバキの横に座る。
「私が先に行こう。トウノスケは任せたぞツバキ。では行ってくる。」
コレに直ぐに立ち上がったのはソウシンだった。そして広場中ほどまで行って立ち止まる。
「お前の相手は私だ。そしてトウノスケ、お前の命はツバキが取る。」
残った二人へと人差し指を向けてそう言い放つソウシン。
「・・・キサマは一体誰だ?まさかまたオンミョウの者では無かろうな?」
トウノスケはもう澄ましてなんていられる余裕は無いと言った様子だ。この間に屋敷に来た時の奴はもうちょっとスマートだった。
しかし今はそんな仮面は剥がれている。どうやら最初っから薄っぺらい面の皮だったようだ。
「ふっ、この私を忘れたか。仕方が無いとは言え、こうまで誰もが私の顔に見覚えが無くなっているのは少し悲しいな。」
この言葉にトウノスケがまじまじとソウシンの顔を見つめ始める。
しかし先に気付いて声を上げたのはもう一人の残った男の方だった。
「き、きさま・・・まさか!あり得るはずが無い!何故お前が今ここに居る!ソウシン!」
この驚きの声に今度はトウノスケが「なんだとぉ!?」と驚いている。
この顔を見た姫様は心底面白がってくつくつと笑う。この笑いにトウノスケが「嘘では無い」と感じたようだ。
「ああ、久しぶりだな。ツバキの願いでこうして今ここに居る。そして私も敵討ちだ。父はあの世でコレに喜んでくれているだろうか?」
哀しそうな顔でソウシンは俯いて、その後にトウノスケへとその視線を向ける。
「・・・昔とは全く違う。お前はソウシンなどでは無い。行け、あのような偽物が「あの」ソウシンな訳が有るか!」
そう声を荒げるトウノスケ。それに答えるように残った男が前に出てくる。そしてソウシンと向かい合った。
「ふう~。貴様が誰かなんてもう今更どうだっていいんだ。ここで勝てば済む話だ。そんな細い体で俺とやり合おうなんざ百年早い。一撃で終わらせてくれる。」
先程までオロオロとしていた男だが、流石に吹っ切れたようだ。俺と戦う位なら、ソウシンを名乗る目の前の男を屠る方が断然簡単、断然マシだと判断して落ち着いたのだろう。
だけどこの男は判断を間違えてしまっていた。この男は自分の命が無くなるその時までソレに気付けなかった。




