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105  解説

 この世界、ファンタジーは日常に散りばめられている。

 言語、食、生物、空。他にももっとあるが夜空が最も凄いと感じた。

 昼間の空は太陽に変わる「天の火」と呼ばれる物が世界を照らす。これは何も地球と変わらない。雲もある、雨もある、曇りもある、雷も。世界の物理や節理が地球と大差ない、と言うか全く同じ。

 だけど感動なのは夜だ。そもそも星の数がどう見ても地球より多い。密度が凄い。空気が澄んでるとかビルの照明が無いとかのレベルじゃ無く言葉通りに「満天の星」な所。そこに月だ。この世界では「安らかなる目」と呼ばれるが、地球で見る大きさの十倍程の「まあるいお月様」が浮かんでいる。スーパームーンなんて比べ物にならない。

 これを初めて見た時は感動のあまりに涙した。しかもその夜空に吸い込まれてしまうような錯覚までして驚嘆したモノだ。自分があまりにもちっぽけな存在だと感じさせられた。

 圧倒的な自然の前には人間の存在なんて何もかもが無きに等しい事を教えられる。


 そこに母から魔法の存在を教えられ、魔法カバンの凄さに圧倒させられ、そこにエルフが来て精霊ときたもんだ。

 知れば知る程この世界でなんの影響も及ぼさずに静かに生涯を閉じたいと願ってしまう。

 それだけ俺がこの世界で「生きていく事」を受け入れられないでいる。一時は覚悟を決めたつもりでいたが、こうして経験を積むにつれて思いが変わっていく。

 今の俺は行き当たりバッタリで、このまま未知との遭遇を続けていると厄介事に巻き込まれ続ける人生になってしまうんじゃないかと将来の不安が拭えない。

 そんな事になる前にいち早く腰を据えてゆっくりできる拠点を作りたい。だがそれが焦ってもどうしようもならない事が分かっているので流されるままを不承不承に甘んじている


 この世界に生きる者たちに、そんな俺の気持ちなんて察することはできないだろう。

 食事をしながらセレナは約束通りに精霊の事を説明し始めてくれる。


「精霊とは「世界の理を司る者」であり、それ即ち神の使いです。我々エルフはこの精霊と契約をしています。自らの魔力を精霊に与え現象を具現します。」


「ほー、凄いんだね。でも、普通の魔法との違いは?」


「魔法とは自らの魔力のみで世界へ干渉し現象発現させるものです。人族一人の魔力量はたかが知れています。威力は注ぐ量によるので大きな現象を起こすのならばその分の魔力は多く必要です。」


「人が持つ保有量が少ないならエルフはどの位なんだ?」


「そうですね。人族の、最低で三倍から五倍程度でしょうか?」


「それは一般人と比べて?」


「いえ、人族で言う魔法使い、宮廷魔術師の、ですね。」


 その基準がどれ程凄いのか把握していない俺は気の抜けた「フーン」の一言で済ませる。


「精霊魔法は強力です。本来の魔法と呼ばれる技術よりも自由自在です。まず同じ現象を起こすにしても必要魔力は極少量で済みます。そして威力にも大きな差が出ます。」


「それが使えるエルフは聞けば聞くほど万能で優秀だね。」


「お褒めに与り光栄です。ですが一つ欠点もあります。」


「あるの?つかそれ俺に言っていいやつ?」


「はい、問題は御座いません。先ず基本的に一つの精霊としか契約できないのです。そしてそれは風の精が主になります。」


「あぁ!なるほど。狩の班だったセレナたちは風が中心か。音を良く聞こえるようにとか、音をかき消したりとか?風上風下の振り分けやら移動の補助とかか。」


 移動の際のあのスピードはこれの力だったと。あとセレナのホバー移動とかも風の精霊魔法だったのかと納得した。


「流石でございます。我らの領分を即座に見抜かれるとは。恐れ入りました。」


 たったあれだけの会話で驚かれるとは思わなかった俺は、そこでまたしてもエルフたちの忠誠度パラメーターがアップしているのを感じ取ってしまった。


(うーん・・・ファンタジーの設定とかだと大体そんなモンだったから、何となく雑に受け答えただけなんだけどなぁ・・・逆にそれがこんな方向に行くとは・・・)


「ん?だけどさっきの炎は?あれ精霊魔法だって言ってたよね?」


「さようです。私は三つの精霊と契約ができています。」


「あー、それって凄い事なんじゃ?だとすると・・・」


「はい。水、炎、風を扱う事ができます。パープルイーターの毒を洗い流したのは「矢の雨」、炎は「火蜥蜴の吐息」、矢を止め剣を避けたのは「そよ風の防壁」と言います。」


「あーなるほど。良く分かった。水は空気中の水分を集めるのね。炎は周囲の温度を局所に瞬間的に集めて着火、風は大気を圧縮してそれを叩きつけて壁にする、か。」


 目を見開いてエルフたち全員が俺を見つめてくる。迂闊だった。適当な解釈で話したつもりだったが、それがまたしても彼女たちの好感度のゲージをアップさせてしまっている。


「ここまで精霊にお詳しいとは・・・主様は一体・・・いえ。・・・付け加えるならば炎に関しては風を送り込んでより威力を上げております。」


「あー、なるほど、かけ合わせれば色んな複合技もできるなぁ。」


 ちょっと厨二病がくすぐられるが、それを意図的に忘れるように頭の隅に追いやる。

 これ以上ヘンな知識をひけらかすと、エルフたちの俺に対する「何か」がまた上がってしまいそうだ。


「ところで主様。旅金は充分あると仰られていたのに何故野盗の金を抜き取ったのですか?勿体ないと言う理由以外があるとお見受けしました。でなければあのまま全て灰にしても構わなかったはずでは。」


「えーと、お金はさ、巡り巡ってこそなんだよ。この金を使えばその分世の中にお金が回って循環する訳だ。悪党を潤す金は必要無い。だからきっちり巻き上げる。それを使って経済を少しでも良くするため、かな。まあそんな偉そうな事言える程の金持ちじゃないけど。でもそういうのが寄り集まって巡り巡って社会があるんだよ。」


「なるほど。主様のお心、理解しました。自然の摂理と通ずるものがあるのですね。」


「帝国に着いたらこの金で少しいい宿に泊まろう。んで、美味い食い物でも食べ歩きしようか。」


 予想以上に結構な額が入っていた袋をじゃらじゃら鳴らして未だ見ぬ帝国に思いを馳せる。

 ゆっくり観光したいと思いながら、だけどエルフと言う問題を抱えている以上は一波乱も二波乱も起こるだろうと予感も同時に抱えながら。


「今日はここらへんで魔法談義は終わりにして寝よう。」

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