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1034  友の哀しみは自分の悲しみ

 こうして姫様がツバキから離れるとソウシンが頭を下げる。コレにどうやら姫様も目が行ったらしく、頭の上に「?」が出ている顔になった。


「はて?この者は何者ぞ?ツバキの側にこの様な美男がおるとは今まで一度も無かったじゃろ?うーん?はて?見ない顔であるはずなのに、何故か知っておるような?」


「雪姫様、長らくご無沙汰しておりました。挨拶が遅れた事申し訳ありません。ソウシンでございます。」


 この告白に姫様もどうやら思考が付いて来なかったらしい。三秒ほど沈黙の末に「ソウシンじゃと!?」と大声を出して驚いた。


「馬鹿を申すな。ソウシンと言えばいつも痩せておってじゃな、目元はいつもクマができておって、いつも心配になる程の病的なまでに根の暗そうな顔をした土いじりの好きな・・・」


 姫様はジェスチャーを入れて手をアタフタと顔に持って行きながらそう説明をし始める。

 コレにソウシンはちょっと落ち込んだような、苦笑いになった様な、そんな表情をしてしまう。


「なんと・・・おぬし本物のソウシンか?」


「姫様に入れられたあの時の不意打ちの痛みはこの先も一生忘れませんよ。」


 どうやらもっと幼い頃の思い出話を語っているようで、その事で姫様はこのキラキライケメンをソウシンだとしっかりと理解したようだ。その事実に姫様は驚愕で魂が抜けかけたようなマヌケな表情を仕掛けてしまう。

 俺だってちょっと未だに理解を拒む時がある。イカを食べてすぐに不気味な程の速度で顔が、体つきが変化していったのだ。

 目の前でソレが起こっていたのにもかかわらず俺はそいつが本当にソウシンかを疑った程である。


「姫様、事情を説明いたします。トウノスケが父を嵌め、殺害を致しました。その協力に鬼刀流が混じっております。その話を私は葬儀の折にトウノスケが口にしていたのを聞いて逃走いたしました。私の命も狙われると思い、こうして姿を消していました。」


 簡潔に話すツバキの真剣さに姫様もどうやら元に戻った様子だ。

 コレに短く姫様は「もっと詳しく」とだけ口にし黙ってしまう。しかしその顔は険しい。


 こうして少々長い時間を使ってツバキが船で海を挟んだ大陸まで落ち逃げた所までの事情が姫様に伝えられた。


「そうか、ホンにつらい事じゃったのう。して、こうして戻って来たと言う事はワラワにしてほしい事がある、そうじゃな?」


 もっと積もる話もあるだろうが、話を先に進めるために姫様は自分の求められている役目をツバキに尋ねた。

 しかしもうソレが何かを大体察している様子の姫様に、ツバキがグッと強く目を一度瞑ってから口を開いた。


「仇を討ちとうございます。この場で、その許可をいただきたい。姫様の名のもとに。」


「よい、許す。このモノノフを治める父の名においてワラワがソレを許すのじゃ。」


 ここにその姫様の父は居ないと言うのに勝手にそんな約束をしていいのだろうか?

 と思ったら姫様が護衛として未だに入り口に立っている男タンゾウに「証人はお前じゃ、良いな?」と声を掛けていた。

 そのタンゾウと言う男も一つ大きく頷いた。どうやらこのタンゾウと言う男はソレだけの「モノ」を持っているようだ。


「して、サダノブ様は?」


 聞いたのはツバキだ。どうやらそのサダノブと言うのが姫様の父親、このモノノフのお殿様と言う事らしい。


「父上は今視察に行っておって不在じゃ。その代わりをワラワが務めておる。毎日書類仕事で忙しいかぎりじゃて。」


 しんどい、と言った顔で露骨に疲れたと大きな溜息を放つ姫様。コレにタンゾウが小さな咳払いをする。

 この中身は要するに「そのシンドイ仕事を毎日お父上様はしておられるのですよ」と言った咎める代わりであったようだ。

 コレに姫様も「スマンスマン」と言ってタンゾウの方を一瞥する。

 その後は悲痛な表情で話し始めた。


「ムネノリ殿は父の友、ワラワも世話になっていた。ツバキとこうして友になったのもソレが縁じゃ。ツバキの悲しみはワラワの哀しみでもある。因ってこの敵討ちはワラワのモノでもある。いくらでも頼って欲しいのじゃ。」


 この言葉にツバキもソウシンも深く頭を下げた。

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