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12 記憶の証明

(恥ずかし過ぎて死ねる……)

 さらりと妙な発言をしてくれたアレクは何事も無かったかのように周囲の警戒に戻って行ったが、ナディアとバルトは揶揄するような視線を寄越し、クレメンスとデニスは何か居た堪れない様子でちらちらとこちらを見る。その視線を背中に受けつつ、火照った頬に手を当てた。

まだ(・・)見てない、って……)

 そのうち見るつもりなのだろうか。いや、見るどころかそれ以上を望んでいるのは今までの彼の態度からも明らかなのだけれども。つまみ食いのようなことだって何度かされたけれども。

(何もこんな人前で言わなくったって!)

 赤らんだ顔をごまかすように、背嚢を漁って食事の支度に必要な物を些か乱暴に取り出した。エナンデル商会でわざわざ取り寄せして揃えた愛用の調理用具と、瓶詰や燻製肉、フリーズドライや冷凍野菜などの食材を配膳台を兼ねた調理台に並べる。

(……でも……)

 彼は気にしない、見捨てないと言ってくれたけれども、傷だらけの綺麗ではない身体を晒すのはさすがに抵抗があった。それにまだ、異世界人だということも打ち明けてはいないから。気味悪がられたりはしないだろうか。

 無意識に、自分の身体を抱き締めるようにして両腕をさすった。

 ……と。誰かが背後に歩み寄る足音が聞こえてシオリは振り返った。風呂用具と着替えを抱えたデニスと目が合う。風呂周りで何か不備でもあっただろうか。

「どうなさいました? 何か足りない物でも?」

「……いや。不備は無いが風呂は後にする。食事の支度を拝見したい」

「それは構いませんが……」

 バルトは既に入浴しているようだったが、こちらに気付いたアレクがちらりと鋭い視線を向けたのが見えた。クレメンスとナディアも同様だ。向こうで皆と一緒に警戒していたルリィが何かを察したのか、しゅっと素早く戻って来る。

(やっぱり信用無いのかなぁ)

 女主人の口に入る物だから気にするのは当然なのだけれど、薬草茶だけでは信用しきれないのかもしれない。そう思いつつも彼を見ると、その視線は意外にも柔らかさを含んでいるようにも感じられた。ただ警戒しているわけでもないらしい。

 何か釈然としないものを感じつつも、調理台の脇に椅子を成形して毛皮を乗せて座るように勧めると、彼は会釈でもするように僅かに頭を下げて見せ、それから大人しく腰を下ろした。

(う……や、やり辛い)

 いまいち真意の分からないデニスの視線を受けながら、竈に固形燃料を設置して魔法の火を投入する。ちりりと油脂の溶ける音がしてから一瞬の間を置いて、ぼ、と炎が立ち上った。ストリィディア南部に生育する木から作った木炭に魔獣の油脂を浸み込ませた、簡単に着火出来る上に長時間燃焼が可能な特別製の固形燃料は、冒険者や騎士隊でも愛用されている。湿った場所や雪の中のような、薪の調達が難しい遠征での必需品だ。

 手を清め、燻製肉を適当な厚さに切ってから更にサイコロ状に切り分けておく。火に掛けた鍋に果実油を垂らして馴染ませ、スライス大蒜のオイル漬を投入して炒めた。香りが出てきたら、燻製肉とあらかじめ刻んで冷凍していた玉葱、蒸して賽の目切りにした上で冷凍した人参やじゃが芋、フリーズドライのセロリを加えて更に炒める。全体に油がまわったら魔法を発動して清潔な水を入れコトコト煮込む。ストリィディア北部でよく食べられている、肉と根菜のスープだ。

 時々灰汁を取りつつ、次はパンの用意をする。今日はバゲット。薄く切り分け、瓶詰バターを塗った上からドライハーブをまぶし、鉄串に通して炙るだけにしておく。

 副食はお決まりの豚肉の生姜焼きだ。アレクの好物でもあるそれは、自分が知る限りでは疲労回復には一番良いメニューだから、遠征中必ず一回は出すことに決めていた。これも下味を付けて瓶詰にしたものだから、アンネリエ達が風呂から上がるのを見計らって焼くだけだ。

「……その瓶詰は?」

 下ごしらえした豚肉に興味を示したらしい。バルトが瓶詰にしたそれを凝視しながら訊いた。

「豚肉を醤油とお酒と生姜汁に漬け込んだものです」

「ショーユ?」

「大豆と小麦に塩水を混ぜて発酵させて作った調味料で、東方では塩と並んでよく使われているんですよ」

 この世界に来て一年ほど経った頃だろうか。ストリィディアの料理も美味しいのだが、和食の味が恋しくてホームシック気味になりかけていた時に入った輸入食品店で偶然見つけたのがこの醤油だった。別の名前で売られていたそれの原料を聞き、そして匂いと味を確めさせてもらって醤油だと確信した瓶詰の調味料。大瓶で割高ではあったものの、当然のように即買いしてしまった。

「……東方の……」

 デニスは少し眉をひそめて考える素振りを見せた。今のところ、仲間内から醤油を使ったメニューで不満が出たことはないのだけれど、貴族にはやはり馴染みの薄い異民族の調味料に抵抗があるのだろうか。駄目なら別のメニューに切り替えなければならない。

「ええと……もしよろしければ、試食してみますか?」

「……いいのか?」

「少量でしたら大丈夫ですよ」

 提案してみると、意外にも乗り気のようだった。

「少しお待ちくださいね」

 鍋を火に掛けて油を敷き、瓶詰から一枚だけ豚肉を取り出して食べやすい大きさに切ってから焼き始める。じゅ、という音と共に香ばしい匂いが辺りに立ち込めた。向こうで再びアレクが反応する様子が見えて、陰でこっそりと噴き出す。

 ちなみにルリィは一瞬だけぷるんと反応したけれど、雪熊で満腹なせいか特にねだる素振りも見せずに大人しくしている。

 程良く焼き上がったところで木皿に乗せ、フォークを添えてデニスに差し出した。

「どうぞ」

「……ああ。頂こう」

 彼は皿を手に取ると、しばらくじっと眺めてから匂いを嗅いだ。

「……食欲をそそる良い香りだな」

「そうですね。風味は塩よりはずっと良いですし、生姜の香りも効いていると思います。生姜には食欲増進効果もありますから」

「そうなのか?」

「ええ。肉や魚の臭み消しにもなりますし、身体を温める効果もあるんですよ」

「ほう……」

 興味を惹かれた様子で、例の手帳を取り出してメモ書きを始める。

(メモ魔なのかなぁ……)

 知識を蓄積していくことが好きなのかもしれない。

 デニスは手帳に書き付けてからフォークを手に取って肉に突き刺し、恐る恐る口に運んだ。味を確めるようにゆっくりと咀嚼してから飲み下す。

「……美味い。素朴だが食事の進む味だ。アンネリエ様のお口にも合うだろう」

「それは良かったです」

 ほっと胸を撫で下ろす。

「このショーユを使ったソースがいいな。この香ばしさが何とも言えない」

「そうですねぇ。お肉よりむしろこのソースが好きなんじゃないかっていう人は結構多いですよ。皆さんご飯やパンに付けて綺麗に食べきってくれます」

 アレクに初めて振舞った時もそうだった。肉を食べ終わってから何となく悲しそうに皿の底に残った醤油ダレを眺め、それからクレメンスがピラフに絡めて食べているのを見て、はっとしたような顔をして真似をしていたのは今でも覚えている。その仕草がなんだか可愛らしく見えて、こっそり笑ってしまったのは内緒だ。

「ショーユはどこで手に入る?」

「え……っと、トリスの輸入食品店です。『カセロ』っていう名前のお店なんですけど。あとは王都の東方系商店でも買えると思いますよ。ただ小分け販売は今のところしていないらしくて、樽買いになってしまうんですけれども」

 初めてこの世界の醤油を入手した輸入食品店で継続して購入できるかと尋ねてみたのだが、王都の東方系商人経由で樽詰めなら仕入れ可能と聞いて、量と金額にその時は断念したのだ。

 その後、野営地で食事を作るようになってから結局お願いすることになったのだった。豚の生姜焼き、唐揚げ、焼き鳥など、人気メニューには醤油ベースのものも多く、欠かせない調味料だ。

 ちなみに、醤油樽はさすがに部屋には置いておけないので、ラーシュに頼んでアパルトメントの貯蔵庫を間借りしている状態だ。

「樽……樽か……」

 どうやら醤油が気に入ったらしいが、樽と聞いて真剣に悩み始めてしまった。試しに買うにしては量が多過ぎるからだろう。

「醤油、お気に召したんですか?」

「ああ……恐らくアンネリエ様の好みに近い味が出せると思ってな。あの方は素朴な味がお好きなんだ。シンプルな材料でこの味が出せるのなら、買い置きしても良いかと思ったんだが」

 女主人の為なら、気に入らない異民族の話でもこうして熱心に耳を傾ける彼。アンネリエが心底大切なのだと分かる。

「あの……差し支えなければ、少しお分けしましょうか? 幾らかそのまま持ってきていますし、家には樽で置いてありますから、酒瓶か何かに入れてお渡しすることも出来ますよ」

 この提案には心が動かされたらしい。随分悩む様子だったが、結局首を縦に振った。

「ではすまないが、少し分けてもらえるか」

「はい」

 調味料を入れたポーチの中から醤油の入った小瓶を取り出し、予備の小瓶に半量を注いでデニスに手渡した。

「ありがとう」

 大事そうに小瓶を受け取った彼は蓋を開けて香りを確め、次の瞬間顔を歪めた。

「う……このままだと随分な臭いだな」

「ああ……慣れない方には不快かもしれませんね」

 もとより発酵食品は地域性の強い食品だから、他地域の人間には不快な香りに感じられるものもあるだろう。元居た世界でも、今でこそ照り焼きソースの材料や隠し味として海外でも受け入れられている醤油だけれども、流通し始めた当初は虫の臭いがするバグジュースなどと呼ばれていた時代もあったらしい。

「加熱すると、先程のような香ばしい良い匂いになりますよ。バターと醤油を組み合わせたソースは簡単ですしお勧めです」

 肉や茸を炒めても美味しいし、蒸かした芋に掛けるだけでも最高の一品になる。そう伝えると、再びデニスは手帳にメモ書きを始めた。

 せっかくだからと鍋で醤油とバターを溶かしてソースを作り、一緒に持って来ていたマッシュポテトを少量温めて皿に盛った上からバター醤油を垂らす。ついでに燻製肉をひとかけらと茸のオイル漬を残りのバター醤油と共に炒めて一緒に盛り付けてから、彼に差し出した。

 今度は然程躊躇わずにそれを口に入れた彼は、目を丸くした。

「これは凄いな。たった二つ混ぜただけでここまで深みのある美味いソースになるのか」

「発酵食品は元々旨味が強い食品ですからね。醤油もバターも発酵食品ですから、簡単に美味しいソースが出来てしまうんですよ」

「なるほどな……これなら俺でも簡単な料理ならどうにかなりそうだ」

 野外活動でもアンネリエ様に満足して頂ける食事を提供できそうだ、そう付け加えながら熱心に手帳に書き付けていく。追加でおよその分量や火加減を教えれば、それも書き加えられた。

「……アンネリエ様のことが本当にお好きなんですね」

 思わずそう口にすると、一瞬驚いたような表情を作ってから、どこか照れたように視線を反らした。

「まぁ……な。こんな俺でも側近に取り立ててくださった方だ。あの方の為なら出来うる限りのことはして差し上げたい」

 その勿忘草色の瞳が柔らかい笑みの形に細められる。口元が解けて緩やかな弧を描いた。

(あ、この顔……)

 ――ただ女主人として敬うだけではない、愛しい人を想い慕うような――。

(うわぁあ……)

 彼の秘めた想いを見てしまったような気がして、シオリは少し気恥ずかしくなって顔を背けた。

 火に掛けたままだったスープをかき混ぜ、塩胡椒と香草、少量のバターで味を調える。

「……ん。美味しい」

 王国北部の郷土料理であるこのスープは、郷里を離れて生活する冒険者にとって懐かしい家庭の味だ。やはり野営地での人気メニューのひとつだった。

「あ、デニス様もどうぞ」

 いつの間にかこちらに視線を戻していた彼にも味見用の小皿を勧めると、こくりと頷いてからそれを手に取った。一口啜る。

「――!」

 一瞬目を見開き、それからしげしげと小皿を眺めて黙りこくる。その様子に何かただならぬものを感じてシオリはおずおずと声を掛けた。

「あの……もしかしてお口に合いませんでした?」

「いや……」

 我に返ったデニスは首を振って小皿をこちらに返して寄越す。

「……そんなことはない。美味い」

「それなら……良いのですけれども」

 先程までとは何か様子の違うデニスを訝しく思いつつも、配膳台に食器やカトラリーを並べていつでも配膳できるように整えておく。

「――シオリ殿は随分と博識な様子だが……その知識はどこで?」

 どことなく気まずい空気が彼も気になったのか、些か強引に話題を振って来た。

「博識と言って頂けるほどではありませんが……ほとんどは故郷で覚えました」

「故郷で?」

「……はい」

 これはこれで気まずい話題だ。話の流れによっては適当にはぐらかさなければならなくなる。

「移民にしては……ああ失礼、その、色々と物知りのようだ。説明の仕方も理に適っていて分かりやすい。それなりの場所で学んだように見受けられるが」

「学校や――料理や栄養だとか、その他の家事に関する知識は母から教わったものが多いですね」

「ほう。ということは、シオリ殿もお母上も学府を出られたということか。母娘二代に渡って優秀なのだな」

「えー、と……」

 なにやら持ち上げられてしまったけれど、父や兄はともかく母の最終学歴は高校までだし、自分も専門学校を出た程度だ。

 これは困った。ストリィディアは周辺諸国では最も文化が進み環境が整った国ではあるけれども、それでもまだまだ学校のような教育機関は珍しい。当然そこに通う者も王侯貴族といったごく一部の人間に限られる。学校を出たということ自体がその身分の証明にもなるような有様だ。学校に通うのが当たり前という日本とは訳が違う。

「あの……私の国では子供は学校に通うことが義務付けられています。最低でも七歳になる歳から九年間は国民なら誰でも学校に行きますから……幾つかの知識はそこで学んだ程度のものです。あとは興味に応じて本などで調べて覚えました」

「――教育が国によって義務付けられているということか? それは凄いな。しかし、そういった専門書が手に入る環境にいたということなら、やはり優秀なのではないか? 入手するにも読み解くにもそれなりの立場が必要だろう」

(うわああああああ)

 しくじった。文化レベルが違い過ぎて話が通じにくい。やはり故郷に関する話題は適当にあしらうべきだったけれども、もう遅い。

「失礼だが、どちらの国の出身だ? 興味深い。東方にそんな優れた国があったとは」

 どこの国。

 ずきりと胸が痛んだ。この世界に落とされてから――特に最初の頃は何度も訊かれた問いだった。保護してくれたザックや――特に騎士隊にはしつこいくらいに尋ねられた。国境を越えた形跡の無い、明らかな異民族の容姿を持った異国人だ。当然色々と疑われたはずだ。

 言葉を覚え、王国を含めた周辺諸国の情勢をある程度知った今ならわかる。ドルガスト帝国周辺は数年前から情勢が悪く、各国の緊張感も高まっていた時期だった。密入国か、それともどこかの国のスパイか。そう疑われたことだろう。

 場合によっては「とりあえず怪しいから」という理由で投獄されていてもおかしくはなかっただろう。厳しい尋問だって受けていたかもしれない。

 それでもどうにか今まで連行されることもなく過ごせているのは、ザックが親身になって庇ってくれたからだろう。後から聞いた話だが、森の中で身一つで倒れていた、言葉だって演技でもなんでも無く本当に何ひとつ分からなかった、発見現場の状況から恐らく人身売買組織に誘拐され、何らかの理由で捨てられたのだと――そんな風に言って騎士隊に掛け合い、身柄を保護してくれたのだという。

 本当に運が良かったのだ。良い国に落ちて、良い人に拾われた。これが帝国だったら――これがザックでなかったら、きっと想像もつかないほど恐ろしい目に遭っていたかもしれない。今こうして生きていることすら奇跡に近いことなのだと思っている。

 今では亡国の生き残りだと思ってくれている人も多いらしかった。だから最近ではその誤解を利用させてもらっている。

 ――不本意だけれども。

「……日本という国です。でも、地図には載っていませんので、色々聞かれても説明し辛くて――」

 声が掠れた。デニスの顔が痛ましいものを見るような表情になる。

「……いや、こちらこそすまない。些か不躾な質問だった」

「いいえ、どうぞお気になさらず。慣れておりますので」

 気まずい沈黙が下りた。

 ルリィがぷるんと震え、大丈夫? と言うように足元をちょいちょいとつつく。見下ろして微笑んで見せると、少しは安心してくれたようだった。

「――だが、シオリ殿は良い家庭で育ったのだろうな」

「え?」

 唐突なデニスの台詞に視線を上げると、彼はスープの鍋を覗き込んでいるところだった。顔を上げた彼と目が合う。

「このスープ」

「はい?」

「北部の郷土料理……小さい頃、俺の母が作ってくれたスープと同じ味だ。この味は温かい家庭を知っているからこそ出せるものだと思う」

「……!」

 温かい家族、幸せな家庭。

 あの家で育った自分は幸せだった。確かにその記憶があった。

 ……けれども、全てあの世界に置いてきてしまった。地図にも乗らない、その地図すら見知らぬ地形を描いているこの世界で、あの世界の存在を、あの世界で生きて来た全ての事柄を何一つ証明することが出来ない自分。

 身一つで来て、たった一つだけ持って来れたあの日着ていた故郷の衣服ですら――知らないうちにかつての仲間達に売り払われてしまっていて、手元にはもう何も残っていない。

 あるのはただこの記憶だけ。

 あまりの辛さに――もしかしたら、日本も、そこにいる家族や友人達の事も全てが妄想の産物で、自分は本当は最初からこの世界の住人で、四年前のあの日より前の記憶が無いだけなのではないかと思い込もうとしたことも何度もあった。

 だけど。

「――シオリ殿!?」

 ぎょっとしたようにデニスが立ち上がる。酷く動揺した様子を見せた彼は、やがて焦ったように外套のポケットからハンカチを取り出すと、それを差し出してきた。

「……え?」

 意味が分からずに立ち竦んでいるうちに、誰かが駆け寄って来る。

「シオリ!」

 腕が引かれ、誰かの胸の中に抱き込まれた。

「……アレク?」

 訳が分からないままに見上げると、酷く険しい目で前を見据える彼の顔が見えた。

「シオリに何をした」

 固く、底冷えするような声。

「こいつを泣かせるなど――一体どういうつもりだ」

「え?」

 そっと頬に触れてみる。

 ――温かい水滴が、指先を濡らした。

ルリィ「醤油談義からの修羅場」


デニスの言う「温かい家庭を知っている」という言葉の意味については、今後書きますのでお待ち頂ければと。彼の家庭に起きた事件と矛盾しているわけではありませんので悪しからず。

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