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04 孤児院の慰問承ります(1)

 領都トリスの宗教地区。領主の館や隣接する役所へと続く大通りを外れ、多くの宿坊や土産屋が立ち並び、その合間に施療院や救貧院の点在する石畳の道を歩く。白装束の巡礼者や護符を首から下げた旅行者が行き交い、賑わいを見せていた。

 大きく開けた道の先は、良く手入れの行き届いた花壇に季節の花が咲き乱れ、所々に神々や聖人の彫像が点在する広場。そこを抜けると、領都が誇るトリス大聖堂だ。青空に映える白亜の尖塔が美しい。多くの参拝客が出入りするその大聖堂の横を抜け、奥の木立の中に佇む施設に向かう。小さな学校のようにも見える煉瓦造りの二階建ての建物は、かつては修道僧の僧房であったという。

 トリス孤児院。親の無い子や訳あって家族と共に暮らせない子供達が暮らす、神殿併設の児童養護施設だ。

 門の前に佇む聖堂騎士が、人の善い笑みを浮かべて敬礼した。それに会釈を返すと、門が開けられる。門も柵も決して閉じ込める為のものではなく、小さな子供も居るが故の、危険防止の為のものだ。それでも成人間近の大きい子供などは、こっそりと柵を超えて街に遊びに行ってしまったりもするらしいのだけれども。

 敷地内に足を踏み入れると、門扉の開く音を聞きつけたのか、子供達が歓声を上げながら飛び出して来た。どの子供も清潔な服を纏い、顔色も良く肌艶も良い。良く世話の行き届いた環境に居る事が察せられた。幼少時に苦労したという領主夫人は児童福祉に大層熱心らしく、寄付金も潤沢なのだそうだ。きっとその寄付金も正しく子供たちの為に使われているのだろう。他所の孤児院と比べれば遥かに恵まれた場所だった。けれども、心を潤す教養とか娯楽とか、そういったものはやはりどうしても足りなくなる。それを気にした夫人からの依頼という形での「慰問」だった。

『月に二度、誰がどんな形でも良いから、子供達が喜ぶような何かをしてあげて』

 自身の冒険談を語ってもいいし、得物を振るって見せる演武でもいい。

 依頼難易度はC。希望があればC級以上の冒険者なら誰でも受託出来る依頼だけれど、報酬は通常依頼と比較すればそれほど良いわけではなく、内容が内容でもあり、下手なものを見せて子供達をがっかりさせるのも精神的に堪えるものがある。そんなわけで引き受け手は少なく、止むを得ずギルドマスターから手隙の冒険者に指名が行くこともあった。

 ちなみに、子供達たっての希望で、敢えて指名制が取られる事もある。クレメンスの双剣演武や、口の上手いリヌスの冒険談が子供達に人気だったが、今回はシオリをご指名だ。

「シオリおねえちゃん!」

「やったあ、今日はシオリさんだ!」

 飛び出してきた子供らは純粋に喜んで見せるが、大きい少年などはやや不満げに口を尖らせた。

「なんだぁ、魔女の姉ちゃんかよ。剣士様じゃねぇの」

「おやめなさい、トビー!」

 奥から出て来た神官服の壮年の男が、トビーと呼ばれた少年を叱りつけた。トビーはぺろりと舌を出して見せる。悪気は無いのだ。照れ隠しが多分にあるのだろう。

「……まったく。すみません、シオリさん」

「いいえ、構いませんよ。男の子なら騎士様や剣士様に憧れるのは当然ですから」

 司祭のイェンスは心底申し訳無さそうな顔をする。

「彼もああは言っていますが、本当は貴女の『活弁映画』を楽しみにしているのですよ。勿論私もです。幻影魔法をあのようにして使うとは、よく考えたものです」

「そう言って頂けると私も嬉しいです」

 言いながら、ちらりとトビーに視線を向けた。

「……では、今日はトビーの希望にお応えして、騎士様のお話にしましょうか」

 仏頂面をして見せていたトビーの顔が、ぱっと輝いた。その現金な様子に思わず吹き出した。



 子供達に手を引かれて、孤児院の講堂に通される。イェンスに促されて壇上に上がると、子供達はそれぞれ思い思いの場所に陣取った。ちなみに中央に居座るルリィの周りは大人気だ。押し合い圧し合いでルリィの形が歪になっているが、本人が満更でも無さそう(そう見えた)なので、そのままにしておくことにする。

 子供達が落ち着いたのを見計らって、語り始めた。故国の御伽噺をストリィディア風に改めた、とある勇者の物語。

「今日は、『ペルシッカの騎士』のお話です。昔、昔の物語」

 幻影の術式を展開し、物語を空間に投影する。シオリ独自(オリジナル)の幻影魔法『活弁映画』。

 ――講堂が、しんと水を打ったように静かになった。

・イェンス・フロイセン:大聖堂の司祭。41歳。密かに英雄譚が好き。

・トビー:トリス孤児院の少年。15歳。将来の夢は立派な剣士様。


活弁映画とは活動弁士付きの無声映画の事です。今でも居るらしいですね。あれを幻影魔法を使って再現しています。この世界の魔法の蘊蓄はどこかで纏めて語りたいです。

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